1.後遺障害認定基準上のその他の体幹骨

「その他の体幹骨」とは、鎖骨、胸骨、肋骨、肩押骨、骨盤骨(仙骨を含む)を指します。解剖学上、仙骨および尾骨は「脊柱」の一部であるとともに、骨盤骨の一部をなしていますが、後遺障害認定基準上の「脊柱」の障害とは、頸部および体幹の支持機能ないし保持機能およびその運動機能に着目したものであることから、これらの機能を有していない仙骨および尾骨については、脊柱に含まないものとして扱い、仙骨は「その他の体幹骨」の骨盤骨に含めますが、尾骨は除かれています(後遺障害評価の対象としません)。

2.認定基準

その他の体幹骨の障害に関する認定基準は以下のとおりです。

等級 障害の程度

12級5号 鎖骨、胸骨、ろく骨、けんこう骨又は骨盤骨に著しい変形を残すもの

① その他の体幹骨については、「著しい変形を残すもの」が後遺障害として認定されることになりますが、ここにいう「著しい変形」とは、裸体になったときに、変形や欠損が明らかに分かる程度のものに限定されます。したがいまして、X線写真によってはじめてその変形が発見しうる程度のものはこれに該当しません。治療のための採骨による変形の場合も同様です。

② 鎖骨・肩胛骨は、正中面にて左右に分かれているため、それぞれ左右別々の骨として取り扱われる。すなわち、左側の変形と右側の変形がともにあるときには、それぞれ1個の障害として取り扱われることになります。

③ 肋骨は、第1肋骨から第12肋骨まで左右対になって構成されていますが、後遺障害認定基準上、肋骨全体を一括して1つの後遺障害として取り扱います。したがいまして、変形した肋骨の本数たとえば1本切除した場合も、数本を切除した場合も、またその程度や部位等に関係せず、全体として肋骨の変形障害として評価されます。なお、第1から第7までの肋骨は、肋軟骨という、細長い硝子軟骨を介して、腹側で胸骨と結合していますが、肋軟骨も肋骨に準じて取り扱われます。

3.裁判実務

その他の体幹骨の障害は、後遺障害該当性が争いとなることは殆どなく、その障害が残存したことによりどの程度労働能力に影響が生じるのかが争われる例が多いと思われます。

(1) 鎖骨変形について

鎖骨変形は、その運動障害の程度が通常は軽度であり、労働能力の喪失が認められない場合もある。他方、モデル等の容姿が重要な要素になる職業や、スポーツ選手、職人等の肉体的労働的側面が強い職業に就いている場合、痛みが残存している場合等には、10ないし14%程度の労働能力喪失率が認められる。

(2) 肋骨および肩胛骨変形について

変形に伴う神経症状などから、労働能力喪失ありとされることもあります。もちろん、神経症状の発生などを推定させるような状態がなければ、簡単に神経症状としての障害が認められるわけではないので、注意が必要です。

(3) 骨盤骨変形について

骨盤骨変形も労働能力喪失の有無が争われることがあります。

特に、関節や脊椎の固定術等骨移植を要する外科手術に伴って、腸骨から移植する骨を採ったことにより、骨盤骨が変形した場合、後遺障害認定基準上、12級5号に認定されますが、腸骨は人体で最も大きい骨であり、その変形により労働能力が減少することはあまり考えられません。

もっとも、身体の完全性が失われたことは明らかであり、現実にどの程度の影響が出ているかによっても違いがあります(後遺障害による慰謝料の増額事由として斟酌することもあります)。