1. 高次脳機能障害とは

脊柱は頸椎7個、胸椎12個、腰椎5個、および仙骨と尾骨から構成されています。

自賠責保険における「脳外偽による高次脳機能障害」とは、脳外傷後の急性期に始まり多少軽減しながら慢性期へと続く、典型的な症状として多彩な認知障害、行動障害および人格変化を示し、主として脳外傷によるびまん性脳損傷を原因として発症すること等が特徴的な臨床像です。

しかし、「高次脳機能障害」という言業は多義的であることから、特に医療従事者がこの言葉を用いる場合、自賠責保険における「脳外傷による高次脳機能障害」と必ずしも完全に一致しない概念を指している可能性があるため、留意する必要があります。

2. 「脳外傷による高次脳機能障害」の後遺症状

自賠責保険における「脳外傷による高次脳機能障害」の典型的な症状は、以下のようなものであるとされています。

① 認知障害 記憶・記銘力障害、注意・集中力障害、遂行機能障害などで、具体的には、新しいことを覚えられない、気が散りやすい、行動を計画して実行することができないなどです。
② 行動障害 周囲の状況に合わせた適切な行動ができない、複数のことを同時に処理できない、職場や社会のマナーやルールを守れない、話が回りくどく要点を相手に伝えることができない、行動を抑制できない、危険を予測・察知して回避的行動をすることができないなどです。
③ 人格変化 受傷前には見られなかったような、自発性低下、衝動性、易怒性、幼稚性、自己中心性、病的嫉妬、ねたみ・強いこだわりなどの出現です。

上記①~③の症状は軽重があるものの併存することが多いとされます。そして、症状が後遺した場合、社会生活への適応能力が様々に低下することが問題で、これを社会的行動障害と呼ぶこともあります。軽症で、忘れっぽい程度の障害であれば日常生活への影響は少ないですが、重症では就労や就学が困難になったり、介護を要する場合もあります。

また、びまん性脳損傷による「脳外偽による高次脳機能障害」の場合、小脳失調症、痙性片麻痺あるいは四肢麻痺の合併も多いとされます。

3. 「脳外傷による高次脳機能障害」の後遺障害等級認定基準

(1)  自賠責保険の認定基準
自賠責保険の後遺障害等級認定基準は、労災保険の後逍障害等級表における「神経系統の機能又は精神の障害」の系列における各等級に準拠しており、その症状から各等級(1級1号、2級1号、3級3号、5級2号、7級4号、9級10号)に分類されております。

(2)  労災保険の認定基準
労災保険では、高次脳機能障害について、被災者の職場における就労状況に着目し、①意思疎通能力、②問題解決能力、③作業負荷に対する持続・持久力、④社会行動能カの4つの能力の喪失の程度を、「障害なし」および「わずかに喪失」から「全部喪失」までの「6段階」の障害区分で評価し、この内容に基づき、第1級、第2級、第3級、第5級、第7級、第9級、第12級、第14級の等級格付けを行っています。

(3)  自賠責保険の認定基準と労災保険の認定基準の関係
なお、自賠責保険の後遺障害等級表およびその認定基準は労災保険に準拠するとされていますが、沿革的にまず自賠責保険の認定基準が定められ、その後に労災保険の認定基準が定められたため、両者の整合性をどのように考えるかという論点があります。

労災保険の認定基準上、高次脳機能障害の等級には12級及び14級も規定されていますが、自賠責保険では、脳外傷(脳の器質的損傷)による精神障害の発症が確認される場合は9級以上で評価されており、脳の器質的損傷による後遺障害として12級が認定されるのは、CTやMRIで脳損傷の痕跡(脳挫傷痕)が確認されるものの、当該脳損傷から生じる具体的な障害(労働能力の制限を生じる程度の障害)が認められない場合であり、自賠責保険の認定実務において14級とされているのは、非器質性精神障害としての認定がされる場合となります。

4. 自賠責保険における認定システム

(1)  高次脳機能障害発症の有無の判断
自賠責保険は、以下各条件のいずれか1つにでも該当する事案を特定事案として取り扱い、専門医等によって構成される「高次脳機能障害審査会」に付議することとしています。なお、これらの要件は、あくまでも高次脳機能障害の残存の有無を審査する必要がある事案を選別するための基準であり、自賠責保険における高次脳機能障害の判断基準ではないことに注意が必要です。

① 初診時に頭部外傷の診断があり、頭部外傷後の意識障害(半昏睡~昏睡で開眼・応答しない状態:JCSが3桁、GCSが8点以下)が少なくとも6時間以上、若しくは、健忘症あるいは軽度意識障害(JCSが2桁~1桁、GCSが13~14点)が少なくとも1週間以上続いた症例
② 経過の診断書又は後遺障害診断書において、高次脳機能障害、脳挫傷(後遺症)、びまん性軸索損傷、びまん性脳損傷等の診断がなされている症例
③ 経過の診断書又は後遺障害診断書において、高次脳機能障害を示唆する具体的な症状(記憶・記銘力障害、失見当識、知能低下、判断力低下、注意力低下、性格変化、易怒性、感情易変、多弁、攻撃性、暴言・暴力、幼稚性、病的嫉妬、被害妄想、意欲低下)、あるいは失調性歩行、痙性片麻痺など高次脳機能障害に伴いやすい神経徴候が認められる症例、さらには知能検査など各種神経心理学的検査が施行されている症例3か月以内に脳室拡大・脳萎縮が確認される症例
⑤ その他、脳外傷による高次脳機能障害が疑われる症例

(2)  認定のポイントと注意点
自賠責保険における高次脳機能障害は、脳の器質的損傷によるものです。同様の症状であっても、脳損傷が認められない場合は、非器質性の精神障害に関する等級認定が行われます。したがって、等級認定は、①事故による脳損傷の有無、②障害の内容・程度の検討が必要です。

ア  脳損傷の有無

意識障害の存在
意識は、人間が精神活動を行う基本的な条件であり、意識障害の存在は、外傷による高次脳機能障害の認定においても極めて重要な所見とされています。仮に、画像上は明確な異常所見が確認できなくとも、相当程度の意識障害が相当期間継続したとなると、何らかの損傷が脳に発生したと疑うことはあながち不合理とはいえません。

逆に、意識障害がなかった場合には、重篤な脳の損傷はなかったのではないかとの推定が働くことになります。問題は、本当に意識障害がなかったのかどうかです。重度のものであれば、救急医療段階で気づかれないことはないでしょうが、軽度の場合は、見逃しや、意識障害の検査における程度評価が適切だったかどうかという疑いが残るからです。自賠責保険の実務における原則からいえば、一定程度の意識障害の一定時間の継続を目安としており、その程度までいかなければ消極的評価に傾くことになりますが、被害者がこれに異議を唱えることは希有とはいえません。そもそも、どの程度の意識障害と継続時間がなければ脳外傷による障害は発生しないと言い切れるわけではありません(現実に、軽度の損傷で画像上の異常、意識障害がなくとも、脳の損傷は起こると主張する見解も存在します。)。しかし、少なくとも脳損傷の発生は被害者側で立証する必要がありますから、意識障害がなくとも脳の損傷が発生することもあるという、仮説の存在だけでは不十分であり、何らかの説得材料がなければ、器質的損傷による高次脳機能障害の発生を肯定することはできません。

画像所見
画像所見には2つの種類があります。1つは、脳の損傷が発生したことを裏付ける受傷後の画像であり、もう1つは、脳の損傷により生じた障害状態が回復せず、障害が残存したことを裏付ける画像です。

受傷直後の画像に、脳挫傷、血腫、脳内出血などが現れることがあります。しかし、このような異常所見は、時間経過とともになくなっていき、障害が残存している裏付けとなるような異常所見のない状態となることも多いです。そのような状態になることにより、傷害が治癒していることもありますが、画像上は異常所見のない状態になった場合であっても何らかの障害を残している場合があり得ます。すなわち、一度損傷した組織が完全に元どおりになったのか、それとも何らかの障害を残しているのかを、画像だけでは完全に判断できないのが現在の医学の実情です。

そこで、何らかの障害を残していることを推定させる画像が得られないのかが問題になり、また、そもそも、このような損傷の存在を確認できる画像が確実に得られるとは限らないという問題も存在します。近時、外傷による高次脳機能障害の原因と考えられている脳損傷の状態としてびまん性軸索損傷がありますが、これが発生しているかどうかは、画像では確認しにくいという問題が指摘されています。

そこで、脳の組織が破壊されて障害が発生していることを画像所見から推定できないかが課題となり、自賠責保険では、このようなものとして、脳萎縮・脳室拡大像を挙げています。そのため、事故後まもなく脳萎縮・脳室拡大が発生すれば、これにより器質的な脳損傷に起因する障害があると判断できるとされています。

実務上問題となるのは、受傷を示す画像はあっても、脳萎縮・脳室拡大像が確認できない場合です。すなわち、脳実質が損傷したことは確認できますが、それが回復したのか障害を残しているのかを画像から断定できないからです。また、そもそもいずれの画像も存在しないときには、器質的な損傷の存在を認める余地はあるのかということ自体が問題になります。このような場合には、他の症状所見などから器質性精神障害(脳の器質的損傷)が確認できるかどうかが論点となりますが、医療関係者間においても考え方の違いがあり、紛争になりやすいところです。

ところで、画像所見といっても、どのような種類のものによるべきかが論点になることがあります。自賠責保険の等級認定実務においてはCT、MRIが重視されていることは明らかで、実際のところこの2方法の信頼性が群を抜いているといえます。これらは、脳実質の形状あるいは組織の状態を画像化できるので、異常画像があれば、組織が損傷されているのではないかと疑う合理性があるからです。

なお、近時、PET、SPECTのような機能画像、あるいは拡散テンソル画像(DTI)など脳の器質的損傷を示す画像とされるものが、被害者の症状が器質性精神障害であることの証拠として提出される場合がありますが、機能画像はそれにより脳機能が低下した疑いを確認することはできても、そのことから直ちに、機能の低下が、脳実質が破壊されたためのものであることまで推定されるものではなく、また、拡散テンソル画像等で直接脳損傷(後遺障害を残存させるほどの神経軸索への損傷)は確認できないという理解が一般的であるため、自賠責保険の実務ではPETやDTI等で正常値からの隔たりが確認されただけでは、被害者の訴える症状の原因を脳損傷にあると判断できないという扱いをしています。

イ  障害の内容・程度

全般的な情動障害、認知障害、人格変化を内容とする高次脳機能障害については、被害者の具体的な症状・障害の内容を正確に把握することが後遺障害の内容および程度を適切に評価した等級認定を行ううえで重要です。

自賠責保険が原則として準じる労災保険の認定基準は、高次脳機能を4つの能力に分類し、それぞれの喪失の程度を検討して等級を認定し、さらに高次脳機能障害以外の精神・神経系統の障害が併存する場合は、それも総合的に評価して後遺障害等級を認定するものとしています。したがって、適切な等級認定を行うためには、被害者の就労・就学、生活における具体的な状況を記憶や認知に関する障害についてのみを捉えるのではなく、それが被害者の身体の状況、他の障害と相まって、具体的にどのような場面でどのような支障が生じているのかが、後遺障害の認定資料として提供される必要があります。

具体的な認定資料は以下のとおりです。

① 後遺障害診断書
② 神経系統の障害に関する医学的意見

高次脳機能障害として代表的な精神障害・性格障害の有無について医学的見地からの判断を問うものです。
なお、自賠責は、上記ほかに「頭部外傷後の意識障害についての所見」の回答を求めていますが、これは特別事案として高次脳機能障害審査会に付される要件でもある、意識障害の有無・程度及び外傷後の健忘期間について医師の所見を求めるものです。
③ 日常生活報告
被害者が負った高次脳機能障害による具体的な症状の内容は、日常生活上身近な者が最もよく認識しているため、これらの者が日常を通じて実感している具体的な症状を多項目にわたって聴取するものです。

(3)  障害等級認定基準
自賠責保険においては、脳外傷による高次脳機能障害の等級認定にあたり、従来の等級表に加え、下記のような「補足的な考え方」が付されました。なお、この「補足的な考え方」のみをもって判断するのではなく、「まず第1に左欄記載の従来の脳損傷後遺障害認定基準を十分満たすだけの医学的証明が必要」です。障害認定基準 補足的な考え方

▶1級1号
神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、常に介護を要するもの。身体機能は残存しているが高度の痴呆があるために、生活維持に必要な身の回り動作に全面的介護を要するもの。
▶2級1号
神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、随時介護を要するもの。著しい判断力の低下や情動の不安定などがあって、1人で外出することができず、日常の生活範囲は自宅内に限定されている。身体動作的には排泄、食事などの活動を行うことができても、生命維持に必要な身辺動作に、家族からの声掛けや看視を欠かすことができないもの。
▶3級3号
神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、終身労務に服することができないもの。自宅周辺を1人で外出できるなど、日常の生活範囲は自宅に限定されていない。また声掛けや、介助なしでも日常の動作を行える。しかし記憶や注意力、新しいことを学習する能力、障害の自己認識、円滑な対人関係維持能力などに著しい障害があって、一般就労が全くできないか、困難なもの。
▶5級2号
神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの。単純くり返し作業などに限定すれば、一般就労も可能。ただし新しい作業を学習できなかったり、環境が変わると作業を継続できなくなるなどの問題がある。このため一般人に比較して作業能力が著しく制限されており、就労の維持には、職場の理解と援助を欠かすことができないもの。
▶7級4号
神経系統の機能又は精神に障害を残し、軽易な労務以外の労務に服することができないもの。一般就労を維持できるが、作業の手順が悪い、約束を忘れる、ミスが多いなどのことから一般人と同等の作業を行うことができないもの。
▶9級10号
神経系統の機能又は精神に障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限されるもの。一般就労を維持できるが、問題解決能力などに障害が残り、作業効率や作業持続力などに問題があるもの。

5. 高次脳機能障害の後遺障害等級認定上の主な問題点

「脳外傷による高次脳機能障害」に典型的な脳画像所見もしくは意識障害所見の少なくとも一方があるケースでは、後遺障害該当性の認定に大きな問題を生じることは比較的少ないと思われます。しかしながら、そのいずれも欠く場合に、そもそも「脳外傷による高次脳機能障害」に該当するか否かが争われやすいといえるでしょう。

このようなケースは、事故の態様や受傷機転、症状の経過や検査所見等を慎重に検討する必要があります。

前述のように、高次脳機能障害の概念は多義的であり、見解を述べる医師の高次脳機能障害についての考え方が、必ずしも自賠責保険の「脳外傷による高次脳機能障害」とは一致しない点には注意する必要があります。また、医学的評価が確立していない検査で正常との隔たりを呈していることが、脳の器質的損傷の根拠と主張される場合があることにも注意する必要があります。

また、「脳外傷による高次脳機能障害」に該当することは明らかな場合でも、障害の程度が問題となり、具体的な後遺障害等級の認定が必ずしも容易でない場合もあります。「脳外傷による高次悩機能障害」においては、急性期から慢性期に至るまでの過程で、回復の程度に個人差が現れることや、時点により症状の程度が異なることもその一因と思われます。

6. 裁判実務

裁判例を見ると、発症した精神障害が脳外傷による高次脳機能障害(脳の器質的損傷によるもの)であるかを、事故直後の画像所見の有無のみをもって判断するのではなく、経時的な画像の比較、事故時の意識障害の程度、症状(障害)の発症時期や治療期間における推移から総合的に判断していると思われます。とはいえ、画像から明確な脳挫傷が確認され、事故直後の意識障害が重いものについては脳外傷による高次脳機能障害であるとの認定がされやすく、反対に事故後の意識障害が軽く、画像所見も乏しいにもかかわらず極めて重篤な障害の訴えがある場合には非器質性の精神障害(あるいは両者の合併したもの)と認定されやすい傾向にあります。

裁判所における後遺障害の認定は事実認定の問題であり、経験則に照らして障害の原因と内容、永続性などを判断する場面です。脳外傷による高次脳機能障害の認定においては、画像検査機器の技術的限界からくる「目に見えにくい障害」であること、脳の器質的損傷による精神障害と非器質性の精神障害との鑑別が容易でないという医学的知見のあること、医療の現場においては脳実質へのダメージを判断する指標として意識障害の程度(JCS、GCS)が重視されていることをふまえ、被害者が後遺障害として残存すると訴える障害に相応しい程度の脳実質へのダメージがあったのかが判断されていると思われます。したがって、「『頭部外傷』に関する診断もなく、継続的かつ明瞭に撮影された画像において局在性損傷や脳室拡大等の異常所見がないことが明らかで、意識障害もない場合に、人格変化だけで脳外傷による高次脳機能障害として認めることは基本的には困難」といえます。

もっとも、裁判例には、自賠責の認定を覆した例も相当数あります。

7. 軽症頭部外傷(MTBI)

MTBIとは、「MildtraumaticBrainInjury」の頭文字をとった略称です。「自賠責保険における高次脳機能障害認定システム検討委員会」(以下、「検討委員会」といいます。)の報告書においては、軽症頭部外傷は「頭部に何らかの外力が加わった事故のうち軽度なもの」と定義されています。

頭部外傷のうち、事故時における意識障害がないか、あるいは極めて軽度(軽い脳震盪程度)であり、MRI等の画像上明らかな脳損傷を示す異常所見が乏しいものについては、器質的脳損傷に基づく高次脳機能障害は認められないのが原則です。

ただし、画像上の異常所見は乏しいものの、事故時に一過性ないし軽度の意識障害が認められたケースにおいては、顔面骨折等頭部に強い衝撃を受けたことが推認されること、精神神経症状の程度、経過等を総合勘案し、高次脳機能障害を認定した裁判例もあります。

(1)  自賠責保険の考え方
検討委員会は、従来の認定システムで軽症頭部外傷に基づく高次脳機能障害が見過ごされているのではないかとの国土交通省よりの問題提起を受け、この点を中心に認定システムの検討、見直しを行った結果を、「自賠責保険における高次脳機能障害認定システムの充実について」(平成23年3月5日付報告書)として発表しています。同報告書は、高次脳機能障害の医学的判断に当たっては、一定時間継続する意識障害と、びまん性軸索損傷を裏付けるCT、MRIの画像所見が重要であることを再確認しています。

軽症頭部外傷事案における高次脳機能障害判断方法については、WHOが軽症頭部外傷患者に関する研究の系統的レビューを行い2004年に発表した研究結果を重視し、以下のように結論付けています。

「軽症頭部外傷後に1年以上回復せずに遷延する症状については、それがWHOの診断基準を満たすMTBIとされる場合であっても、それのみで高次脳機能障害であると評価することは適切ではない。ただし、軽症頭部外傷後に脳の器質的損傷が発生する可能性を完全に否定することまではできないと考える。したがって、このような事案における高次脳機能障害の判断は、症状の経過、検査所見等も併せ慎重に検討されるべきである。」

上記を踏まえ、検討委員会は同報告書において、自賠責保険が高次脳機能障害事案として審査の対象とする事案を選定する基準の改定案を発表しました。改定の内容は、審査対象を特に拡大するものではありませんが、意識障害が軽度な上に画像所見が乏しい事例であっても、高次脳機能障害の可能性を示唆する症状の残存が認められる場合には審査対象となることを明確化したものといえます。他方、当該基準は高次脳機能障害の判定基準ではなく、あくまでも審査する必要のある事案を選別するための基準であることも明記されました。

以上より、自賠責保険は、意識障害が軽度であり画像所見が乏しいMTBIについては、基本的に高次脳機能障害の後遺障害該当性はないとの立場をとっていますが、可能性を完全に否定するのではなく、審査の対象として慎重な判断を行っている、ということになると思われます。

(2)  裁判所の考え方
裁判例の大勢は、高次脳機能障害については一定以上の意識障害及びCT、MRI画像上脳損傷を裏付ける所見が必要との考え方であり、これら要件を欠く頭部外傷については、MTBIの診断基準に該当しても高次脳機能障害を否定する一方、顔面骨骨折や歯牙破折等を受傷し、事故時に一過性の意識消失があったり、事故後一定期間軽度の意識障害が継続したと認められる事案で、画像上明らかな異常所見がなくても、頭部に相当程度の衝繋があったことから脳に損傷を負った可能性は否定できないとして、高次脳機能障害が認められた裁判例があります。