1. 耳の障害の後遺障害認定

耳の障害については、障害等級表において、聴力障害と耳介の欠損障害が定められていますが、障害等級表に定められていない障害(耳漏・耳鳴り)についても、その障害の程度に応じて、相当等級が認定されます。

2. 認定基準

耳の障害に関する認定基準は以下のとおりです。

(1)聴力障害

両耳

等級 障害の程度 認定基準
4級3号 両耳の聴力をまったく失ったもの。両耳の平均純音聴力レベルが90db以上のもの又は両耳の平均純音聴力レベルが80db以上であり、かつ、最高明瞭度が30%以下のもの。
6級3号 両耳の聴力が耳に接しなければ大声を解することができない程度になったもの。両耳の平均純音聴力レベルが80db以上のもの又は両耳の平均純音聴力レベルが50db以上80db未満であり、かつ、最高明瞭度が30%以下のもの。
6級4号 1耳の聴力をまったく失い、他耳の聴力が40cm以上の距離では普通の話声を解することができない程度になったもの。1耳の平均純音聴力レベルが90db以上であり、かつ、他耳の平均純音聴力レベルが70db以上のもの。
7級2号 両耳の聴力が40cm以上の距離では、普通の話声を解することができない程度になったもの。両耳の平均純音聴力レベルが70db以上のもの又は両耳の平均純音聴力レベルが50db以上であり、かつ、最高明瞭度が50%以下のもの。
7級3号 1耳の聴力をまったく失い、他耳の聴力が1m以上の距離では普通の話声を解することができない程度になったもの。1耳の平均純音聴力レベルが90db以上であり、かつ、他耳の平均純音聴力レベルが60db以上のもの。
9級7号 両耳の聴力が1m以上の距離では、普通の話声を解することができない程度になったもの。両耳の平均純音聴力レベルが60db以上のもの又は両耳の平均純音聴力レベルが50db以上であり、かつ、最高明瞭度が70%以下のもの。
9級8号 1耳の聴力が耳に接しなければ大声を解することができない程度になり、他耳の聴力が1m以上の距離では普通の話声を解することが困難である程度になったもの。1耳の平均純音聴力レベルが80db以上であり、かつ、他耳の平均純音聴力レベルが50db以上のもの。
10級5号 両耳の聴力が1m以上の距離では、普通の話声を解することが困難である程度になったもの。両耳の平均純音聴力レベルが50db以上のもの又は両耳の平均純音聴力レベルが40db以上であり、かつ、最高明瞭度が70%以下のもの。
11級5号 両耳の聴力が1m以上の距離では小声を解することができない程度になったもの。両耳の平均純音聴力レベルが40db以上のもの。

耳と他耳との聴カレベルの組合せによる認定基準一覧表

・耳
・聴力
・他耳
・聴力 90dB以上 80dB以上
・90dB未満 70dB以上
・80dB未満 60dB以上
・70dB未満 50dB以上
・60dB未満 40dB以上
・50dB未満
・90dB以上
・4級3号 6級4号 7級3号 9級8号
・80dB以上
・90dB未満
・6級3号
・70dB以上
・80dB未満
・6級4号 7級2号
・60dB以上
・70dB未満
・7級3号 9級7号
・50dB以上
・60dB未満
・9級8号 10級5号
・40dB以上
・50dB未満
・11級5号

両耳の聴カレベルと最高明瞭度との組合せによる認定基準一覧表

・両耳
・聴力
・最高
・明瞭度 90dB以上 80dB以上
・90dB未満 70dB以上
・80dB未満 60dB以上
・70dB未満 50dB以上
・60dB未満 40dB以上
・50dB未満
・30%以下
・4級3号 6級3号 10級5号
・50%以下
・7級2号
・70%以下
・9級7号

1耳

等級 障害の程度 認定基準
級9号 1耳の聴力をまったく失ったもの。1耳の平均純音聴力レベルが90db以上のもの。
10級6号 1耳の聴力が耳に接しなければ大声を解することができない程度になったもの。1耳の平均純音聴力レベルが80db以上90db未満のもの。
11級6号 1耳の聴力が40cm以上の距離では、普通の話声を解することができない程度になったもの。1耳の平均純音聴力レベルが70db以上80db未満のもの又は1耳の平均純音聴力レベルが50db以上であり、かつ、最高明瞭度が50%以下のもの。
14級3号 1耳の聴力が1m以上の距離では小声を解することができない程度になったもの。1耳の平均純音聴力レベルが40db以上70db未満のもの。

(2)耳介の欠損障害

等級 障害の程度
12級4号 1耳の耳殻の大部分を欠損したもの。

① 「耳殻(耳介)の大部分の欠損」とは、耳介の軟骨部の1/2以上を欠損したものをいいます。
② 耳介は左右で系列が異なるので、両耳の耳介を欠損した場合には、1耳ごとに等級を定め、これを併合します。
③ 耳介の大部分を欠損したものについては、耳介の欠損障害としてとらえた場合の等級と、外貌の醜状障害としてとらえた場合の等級のうち、いずれか上位の等級に認定します。
※例えば「耳介の大部分の欠損」は第12級4号に該当しますが、醜状障害としては第7級12号に該当しますので、この場合は、外貌の醜状障害として第7級12号に認定されることになります。
④耳介軟骨部の1/2以上には達しない欠損であっても、これが、「外貌の単なる醜状」の程度に該当する場合は、第12級14号に認定されます。なお、耳介の欠損を醜状障害としてとらえる場合は、外貌醜状は外貌全体で一つの系列ですから、両耳の耳殻に欠損があったとしても、1耳ごとに等級を定めてこれを併合する取扱いはしません。

(3)耳漏

等級 障害の程度
12級相当 鼓膜の外傷性穿孔による耳漏が常時あるもの
14級相当 鼓膜の外傷性穿孔による耳漏があるもの
14級相当 外傷による外耳道の高度の狭窄で耳漏を伴わないもの
     前提:難聴を伴うもの

(4)耳鳴

等級 障害の程度
12級相当 耳鳴に係る検査によって難聴に伴い著しい耳鳴が常時あると評価できるもの
14級相当 難聴に伴い常時耳鳴が常時あることが合理的に説明できるもの

① 耳鳴に係る検査とは、ピッチ・マッチ検査、ラウドネス・バランス検査をいい、これらの検査により耳鳴が存在すると医学的に評価できる場合には、12級相当として取り扱います。
② 難聴とは、平均純音聴カレベルは40db未満(聴力障害の基準を満たさないレベル)であっても、耳鳴が存在するであろう周波数純音の聴カレベルが他の周波数純音の聴カレベルと比較して低下しているものをいう。

3. 検査方法

耳の障害に関する検査方法は以下のとおりです。

(1)聴力検査

ア  純音聴力検査(Pure Tone Audiometry)
検査には、オージオメータを用いて行い、結果はオージオグラム(純音聴力検査によって測定された気導聴力閾値と骨導聴力閾値を記入するための定められた形式の図)に記載されます。
上記検査は、日を変えて3回行い、検査と検査の間隔は7日程度あければ足りるとされており、障害等級の認定は2回目と3回目の測定値の平均純音聴力レベルの平均により行われます。

イ  語音聴力検査(Speech Audiometry)
語音聴取閾値検査は語音によって聴取閾値を測定する検査であり、了解度の高い特定語音の50%正答率が得られるレベルを求めます。語音弁別検査は、語音を聞かせて被検者がどのくらい聞き分けられるかを検査し、被検者の言語の受聴能力について判定の資料を得るための検査であり、それぞれのレベル(db)毎に正答率(%)を求め、スピーチオージオグラムに記入します。

上記検査は、1回でも差し支えないとされています。

ウ  他覚的聴力検査聴力の確認は、上記アイの検査で十分ですが、以下の他覚的聴力検査が必要となる場合があります。
(ア)  聴性誘発反応(AER)
(イ)  インピーダンス・オージオメトリー

(2)耳鳴検査

ア  ピッチ・マッチ検査
耳鳴が11周波数の純音、バンドノイズあるいはホワイトノイズのどれに最も似ているかを調べる方法です。

イ  ラウドネス・バランス検査
ピッチ・マッチ検査で耳鳴のピッチが得られた後に、そのピッチの純音(または雑音)を用いて耳鳴の大きさを調べる方法で、耳鳴検査の中では最も重要な検査です。

ウ  耳鳴マスキング検査(遮蔽検査)
  ピッチ・マッチ検査で得られた耳鳴周波数のハンドノイズを用いて耳鳴を遮蔽し、最小の耳鳴遮蔽レベルを調べる方法です。

裁判実務
聴力障害は、それが単独で生じるということは少なく、頭部外傷による脳機能障害とともに出現し、あるいは頸部捻挫等の末梢神経障害とともに出現する場合が多いと思われます。そして、同障害については、事故との因果関係や、その障害が残存したことによりどの程度労働能力に影響が生じるのかが争われる例が多いと思われます。

① 事故との因果関係について
聴力障害については、事故によって生じたものといえるのかが争われることがあります。特に、症状が外傷時から一定時間経過後に生じることがあり、そのような場合には、聴力障害が残存していること自体が認められても、事故との因果関係が否定されることがあります。

また、受傷内容から聴力障害の発生が争われることや、素因があることから事故との因果関係が争われることもあります。

② 労働能力の喪失について
将来的に障害を克服する可能性がある場合や、障害の程度が軽微であると、労働能力の喪失が否定されたり、制限されることもあります。

4. むち打ち損傷(バレ・リュー症候群)について

バレ・リュー症候群は、頸椎神経(頸部交感神経)の刺激状態によって生じ、頭痛めまい、耳鳴、視障害、首の違和感、摩擦音、易疲労感、血圧低下などの自覚症状を主体とするものと定義されています。そのため、むち打ち損傷事案で、耳鳴の主張がみられることがあり、また聴力障害が訴えられることも希ではありません。

しかしながら、自賠責保険実務では、器質的原因によるものを障害認定する扱いであり、むち打ち損傷事案における耳鳴や聴力障害などは非該当とされることが多いとい思われます。