認定のポイントと裁判実務
全般的な傾向として、認定基準がある程度具体的であるため、等級評価が争点となることはあまり高くないと思われますが、労働能力喪失率はもちろん、可動域の判定等は争いになることがあります。
(1) 機能障害の原因
自賠責保険の後遺障害の等級認定は、将来にわたり残存する障害の有無を評価するものですので、機能障害が認定されるためには、事故により関節の動きが制限される原因となる器質的損傷(関節部分の骨折後の癒合不良、関節周辺組織の変性による関節拘縮、神経の損傷など)が生じたことが必要とされています。したがいまして、疼痛による可動域制限(痛いから曲げられないなど)の場合は、局部の神経症状(12級13号または14級9号)として等級評価がなされる可能性があるにとどまります。
裁判においては、関節可動域制限の原因とされる器質的損傷の有無という争いのほか、腱板損傷等の器質的な原因が確認された場合であっても、それが「事故前からのものではないか」として、事故との因果関係が争点となることも多いです。
(2) 測定結果の信憑性
自賠責保険では、通常、後遺障害診断書の検査数値で判断が行われ、疑義がある場合には医療照会がなされます。これに対し、訴訟になると、医療記録から何度か測定された数値が判明することが多く、改善されたはずのものが悪化して重度の障害状態になったという経過が出てくると、その理由付けをめぐって争いとなり、合理的な説明が必要となる場合があります。
(3) 基準に達しない可動域制限の扱い
認定基準は機能障害を可動域制限の程度で判断するから、仮に事故により関節の可動域制限が生じていても、基準値に達しない限りは機能障害としての等級認定はされません。しかし、裁判例の中には、基準に達しない可動域制限であってもその実態から後遺障害として評価するものがあります(ただし、裁判所は、被害者の症状を十分に検討した上で認定していますので、何の理由もなく基準に達しないものを後遺障害として等級認定することはありません。)。
また、裁判例には、可動域制限が基準に達しないことを理由に機能障害としては否定しながら、疼痛等が関節付近に残った場合には局部の神経症状として等級認定するもの、慰謝料の考慮事由とするもの、あるいは認定基準を満たした場合の後遺障害等級よりは控えめな労働能力喪失率と慰謝料額を認定するものがあります。