2.認定基準
上肢・下肢の変形障害に関する認定基準は以下のとおりです。
【上肢】
等級 障害の程度
●7級9号 1上肢に偽関節を残し、著しい運動障害を残すもの
次のいずれかに該当し、常に硬性補装具を必要とするものをいいます。
a 上腕骨の骨幹部又は骨幹端部(以下、「骨幹部等」という。)にゆ合不全を残すもの
b 撓骨および尺骨の両方の骨幹部等にゆ合不全を残すもの
●8級8号 1上肢に偽関節を残すもの
次のいずれかに該当するものをいいます。
a 上腕骨の骨幹部等にゆ合不全を残すもので、常に硬性補装具を必要としないもの
b 撓骨および尺骨の両方の骨幹部等にゆ合不全を残すもので、常に硬性補装具を必要としないもの
c 撓骨および尺骨のいずれか一方の骨幹部等にゆ合不全を残すもので、時々硬性補装具を必要とするもの
●12級8号 長管骨に変形を残すもの
次のいずれかに該当するものをいいます。ただし、同一の長管骨にa~fの複数の障害が残存しても12級8号を認定します。
a 次のいずれかに該当し、外部から想見できる(見てわかる)程度以上のもの
① 上腕骨に変形を残すもの
② 撓骨および尺骨の両方に変形を残すもの(いずれか一方のみの変形でも、その程度が著しいものはこれに該当します。)
b 上腕骨、撓骨または尺骨の骨端部にゆ合不全を残すもの
c 撓骨および尺骨の骨幹部等にゆ合不全を残すもので、硬性補装具を必要としないもの
d 上腕骨、撓骨または尺骨の骨端部のほとんどを欠損したもの
e 上腕骨(骨端部を除く)の直径が2/3以下に、または撓骨もしくは尺骨(それぞれの骨端部を除く)の直径が1/2以下に減少したもの
f 上腕骨が50度以上外旋または内旋変形ゆ合しているもので、次のいずれにも該当することが確認されるもの
① 外旋変形ゆ合にあっては、肩関節の内旋が50度を超えて可動できないこと、内旋変形ゆ合にあっては、肩関節の外旋が10度を超えて可動できないこと
② X線写真等により、上腕骨骨幹部の骨折部に回旋変形ゆ合が明らかに認められること
【下肢】
等級 障害の程度
●7級10号 1下肢に偽関節を残し、著しい運動障害を残すもの
次のいずれかに該当し、常に硬性補装具を必要とするものをいいます。
a 大腿骨の骨幹部又は骨幹端部(以下、「骨幹部等」という。)にゆ合不全を残すもの
b 脛骨および排骨の両方の骨幹部等にゆ合不全を残すもの
c 脛骨の骨幹部等にゆ合不全を残すもの
●8級 1下肢に偽関節を残すもの
次のいずれかに該当するものをいいます。
a 大腿骨の骨幹部等にゆ合不全を残すもので、常に硬性補装具を必要としないもの
b 脛骨および腓骨の両方の骨幹部等にゆ合不全を残すもので、常に硬性補装具を必要としないもの
c 脛骨の骨幹部等にゆ合不全を残すもので、常に硬性補装具を必要としないもの
●12級8号 長管骨に変形を残すもの
次のいずれかに該当するものをいいます。これらの変形が同一の長管骨に複数存する場合もこれに含みます。
a 次のいずれかに該当し、外部から想見できる(見てわかる)程度以上のもの
① 大腿骨に変形を残すもの
② 脛骨に変形を残すもの(腓骨のみの変形でも、その程度が著しいものはこれに該当する。)
b 大腿骨または脛骨の骨端部にゆ合不全を残すもの、または脛骨の骨幹部等にゆ合不全を残すもの
c 大腿骨または脛骨の骨端部のほとんどを欠損したもの
d 大腿骨または脛骨(いずれも骨端部を除く)の直径が2/3以下に減少したもの
e 大腿骨が外旋45度以上または内旋30度以上変形ゆ合しているもので、次のいずれにも該当することが確認されるもの
① 外旋変形ゆ合にあっては、股関節の内旋が0度を超えて可動できないこと
内旋変形ゆ合にあっては、股関節の外旋が15度を超えて可動できないこと
② X線写真等により、大腿骨骨幹部の骨折部に回旋変形ゆ合が明らかに認められること
【補足】
① 「偽関節」について、認定基準上はカパンジ一法(回内・回旋運動の改善や手関節の安定を図るため、尺骨の一部を切り離して、尺骨の遠位端を撓骨に固定する手術)による尺骨の一部離断を含めて「ゆ合不全」とした上で、長管骨の保持性や指示性への影響の程度に応じた等級を認定します。
② 「外部から想見できる程度」とは、15度以上屈曲して不正ゆ合したものをいいます。
③ 長管骨の骨折部が正しい方向に短縮なくゆ合している場合は、その部位に骨肥厚が生じていても「変形」とはされません。
3.裁判実務
変形障害については、認定基準がある程度具体的にあるために、その適用が争われるというより、その障害が残存したことによりどの程度労働能力に影響が生じるのかが争われる例が多いと思われます。
(1) 偽関節手術と後遺障害について
交通事故被害者が偽関節手術を受けないことをもって、医学上通常かつ相当の治療を欠いていたとはいえず、また、偽関節手術を受けないとした被害者の判断が合理性を欠くと評価することもできないため、被害者が偽関節手術を受けなかったことを理由に、事故と後遺障害の因果関係を否定・制限するのは相当ではないとされた事例があります(東京地裁平成24年7月17日判決・交民45巻4号792頁)。
(2) 腓骨の偽関節(仮関節)について
腓骨の偽関節とは、腓骨(脛骨の隣にある骨)の骨折部の骨の癒合が起こらず、異常な可動性がみられる状態が残存し、これにより足関節の変形、安定性・運動性の減少、亜脱臼及び疼痛、下腿の支持機能の減弱等を生ずる後遺障害です。
労災制度の運用に準じて行われている自賠責制度の運用においては、平成16年6月4日付厚生労働基準局長通達(基発第0604003号)による労災制度における認定の取扱いの変更に合わせて、自賠責制度の運用においても、平成16年7月1日以降に発生した事故について、脛骨及び腓骨の両方の骨幹部又は骨幹端部(以下、「骨幹端部等」という。)に癒合不全を残し、常に硬性補装具を必要とする場合には7級10号、脛骨及び腓骨の両方の骨幹部等に癒合不全を残し、7級10号に該当しない場合には8級9号、腓骨の骨幹部等に偽関節がある場合には12級8号に認定されることとなりました(上記通達の以前には、脛骨及び腓骨9両方に偽関節を残す場合には7級10号、腓骨に偽関節を残す場合には8級9号に認定されていたものに、12級が追加され、単に排骨の骨端部に偽関節がある場合には非該当に認定されることになりました。)。
労働能力喪失率について、一般には、自賠責制度の運用において用いられている労働能力喪失率表に従って労働能力喪失率が認められています。もっとも、腓骨の隣にある脛骨が強いことから、腓骨の偽関節が残存しても、歩行や立位にはそれほどの影響がない場合もあり(上記自賠責の運用における見直しは、このような見地から行われたものです。)、被害者の職業がデスクワークを中心とする事務職のように肉体的活動を伴わないもので、疼痛がなく、歩行・立位等の日常生活に影響を及ぼさない場合には、自賠責制度の運用におけるよりも低い労働能力喪失率が認められることがあります。逆に、被害者の職業がスポーツ選手である場合等は、上記よりも高い労働能力喪失率が認められることがあります。