葬儀費用は原則として150万円。但し、これを下回る場合は、実際に支出した額。香典については損益相殺を行わず、香典返しは損害と認めない。とされています。
葬儀費用は原則として150万円。但し、これを下回る場合は、実際に支出した額。香典については損益相殺を行わず、香典返しは損害と認めない。とされています。
死亡事故の場合、葬儀費用が賠償の対象となるのかについては、人はいずれ死亡するため支出を免れないことや、遺族は通常、自ら費用負担して死者に対し哀悼の意をあらわすことなどから、かつては否定する考えもありました。
しかし、いずれ死亡するとはいえ不法行為により支出を余儀なくされたものであることから、葬儀費用も損害賠償の対象となるものと認められています(最判昭43・10・3判時540・38)。
また、純粋な葬儀費用のほか、墓石・仏壇・位牌購入費、墓地購入・墓石建立費などについても賠償の対象となるのかが同様に問題となります。葬儀費用は消耗費的な損害であるのに対し、墓碑建設費や仏壇購入による損害は、将来にわたりその家族や子孫が使用する場合にはその利益が将来にわたり残ることになり、また費用も高額であるため、従来は否定される例も多くあったようです。
しかし、最高裁は積極説に立つことを明らかにしており、「その支出が社会通念上相当と認められる限度において、不法行為により通常生ずべき損害」とした上で、支出した費用の全額を損害と認めることはできず、「死者の年齢、境遇、家族構成、社会的地位、職業等諸般の事情を斟酌して、社会の習俗上その霊をとむらうのに必要かつ相当と認められる費用の額」を認定すべきであるとしています(最判昭44・2・28交民2・1・12)。
上記のとおり、葬儀費および墓碑建設費・仏壇購入費等につき、賠償の対象と認められるとしても、全額を加害者の負担とするのは相当でなく、原則130~170万円(「赤い本〔2013年版〕」では150万円(上巻50頁)として、現在ではほぼ定額化されています。ただし、これを下回る場合は、実際に支出した額になります。
認定方法としては、①葬儀費と墓碑建設費等を一体として「葬儀関係費用」などとして認定する方式と、②葬儀費と墓碑建設費等とを区別して認定し、一定割合または金額で認定する方式が考えられますが、墓石等について被害者本人の利用相当部分が正確に区別できるものではなく、一括して認定する方法が多く採用されているようです。
なお、葬儀費のほか遺体運送費・遺体処置費等を別途に認めた例もあります。
また、葬儀関係費用としては一定額で算定しつつ、高額の葬儀関係費用を支出したことが精神的苦痛の大きさをあらわすものとして、慰謝料などの損害項目で考慮された事例もあります。
香典返しを支出したとしても、損害賠償の対象とはされません。
香典を支払われた場合にも、社交上の儀礼として相当な範囲であれば、損害額から控除しないものとされています。他方、香典として受け取った分を、葬儀費から差し引く(損益相殺)こともありません。最高裁も「会葬者等から贈られる香典等は、損害を填補すべき性質を有するものではないから、これを賠償額から控除すべき理由はない」と判示しています(最判昭43・10・3判時540・38)。