交通事故の後遺障害における治療費の範囲とは
交通事故による損害賠償として治療費が認められる範囲は、「交通事故と相当因果関係が認められる治療費」あるいは「必要かつ相当な治療費」ということになります。
具体的には、個々の事例ごとに検討していくしかありませんが、実務的に問題となっている治療費の範囲に関する論点としては、過剰診療、高額診療、特別室使用料または差額ベッド代、鍼灸・マッサージ費用、温泉治療費、症状固定後の治療費、医師への謝礼等の問題があります
交通事故による損害賠償として治療費が認められる範囲は、「交通事故と相当因果関係が認められる治療費」あるいは「必要かつ相当な治療費」ということになります。
具体的には、個々の事例ごとに検討していくしかありませんが、実務的に問題となっている治療費の範囲に関する論点としては、過剰診療、高額診療、特別室使用料または差額ベッド代、鍼灸・マッサージ費用、温泉治療費、症状固定後の治療費、医師への謝礼等の問題があります
過剰診療とは、診療行為の医学的必要性ないしは合理性が否定されるものといわれていますが、言い換えると、診療の範囲や期間等において、交通事故と相当因果関係が認められないものをいいます。
例えば、交通事故の受傷の範囲を明らかに超えて治療がなされた場合(被害者の既往症や私病に対する治療が行われるケースなどもあります。)、医師の治療内容が濃厚かつ過剰である場合、交通事故による受傷の程度から考えて明らかに長期にわたる遷延的な治療が行われた場合などには、治療費の全部または一部が損害賠償の対象にならないケースが生じます。
高額診療とは、診療報酬が特段の事由がないのに社会一般の診療報酬水準に比して著しく高額な場合をいいます。
交通事故により受傷した被害者が、健康保険制度を利用せず、自由診療が行われた場合に、どのくらいの診療単価まで交通事故と相当因果関係が認められるか等が検討されることとなります。
特別室使用料または差額ベッド代が認められるのは、医師の指示や特段の事情(症状が重篤、満床等)がある場合とされていますが、この点もやはり交通事故と相当因果関係が認められる範囲を個別具体的(傷害の部位、程度、治療上の必要性、使用期間、被害者の地位、身分、資産、職業等)に検討することとなります。
これらの費用については、治療の効果が不明瞭であることや治療が遷延化しやすいこと等から、治療費として認められる範囲が問題となりますが、医師の指示がある場合は認められるとされています。もっとも、医師がこれらを指示することは多くないと思われますし、仮にこれを認める場合であっても、積極的に承諾するというよりは、消極的に許容していることが殆どであると思われます(中にはこれらを認めないという医師もいます。)。
柔道整復師による施術については、柔道整復師法により柔道整復師が国家資格として認められており、その施術は法的に確立しています。そして、東洋医学に基づく施術が有用な場合があることは臨床例で認められているところでもありますし、同施術が整形外科での治療の代替機能を有しているという側面もあります。実際、柔道整復師は、営業面での配慮からか、営業時間が遅い時間までであることがあり、被害者にとって整形外科よりも通院しやすいという側面は否定できません。このように、柔道整復師による施術に一定の必要性、合理性があることからすると、医師の指示や承諾がないという理由だけで柔道整復師の施術費を損害として認めないのは妥当ではありません。しかし、柔道整復師は、医師のような画像を用いた検査を行うことができず、医師と同じような症状の把握をすることはできないため、その診断には自ずと限界があり、その施術内容も医師の治療と比べ限定されています。そのため、いわゆる東洋医学については、施術の必要性、有効性、合理性、施術期間・施術費の相当性が認められることが必要となります(東京地判平成14年2月22日・判時1791号81頁)。
症状固定後の治療費は、原則として損害賠償としては認められませんが、症状の悪化を防ぐなどの必要がある場合には認められることがあります。そして、このような治療が将来にわたって行われる必要がある場合には、「症状固定後の治療費」というよりは「将来の治療費」として認定されるものと思われます。さらに、「将来の治療費」には、将来一定期間経過後に必要となる手術費用等も含まれます。
治療費ではありませんが、医師や看護師への謝礼については、社会通念上(常識からみて、一般人の判断からみて)相当なものであれば損害として認められる場合があると解されています。