Case 016 顔面部(前額部)に線状痕(後遺障害等級第9級)を残した被害者につき、後遺障害慰謝料が増額された事例
- 訴訟・ADRあり
- 醜状障害(後遺障害)
担当弁護士永野 賢二
事務所久留米事務所
ご相談内容
依頼主
Pさん(40代・男性)
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職業:会社員
福岡県久留米市在住の40代会社員のPさん(男性)は、足踏式自転車(ロードバイク)を運転し直進していたところ、渋滞車両の間を横切って横断してきた足踏式自転車に衝突され、額部挫滅創、右三又神経第1枝断裂、右額部運動神経麻痺、頚椎捻挫、外傷性めまい等の傷害を負いました。
Pさんは、本件事故により顔面部(前額部)の線状痕が生じ、これを残しました。
そして、労働基準監督署は、Pさんの前額部挫創後の障害につき「外貌に相当程度の醜状を残すもの」として、労働者災害補償保険法施行規則別表第一障害等級表第9級の11の2に当たると判断しました(詳しくは、「醜状障害」を参照してください。)。
弁護士の活動
当事務所は、上記等級認定結果に基づき示談交渉を開始しましたが、加害者側が交渉に応じなかったため、福岡地方裁判所久留米支部に訴訟提起を余儀なくされました。
解決結果
本件訴訟における主な争点は、①後遺障害逸失利益、②過失割合でした。
後遺障害逸失利益について、加害者側は、「後遺障害は前額部の外貌醜状であ」り「労働能力に影響を及ぼすものとは認められない。」として否定しましたが、当事務所の立証活動により、裁判所は「原告の職業、勤務先、本件事故後の就労状況、後遺障害の現状等に照らすと、労働能力そのものへの直接の影響を認めることはできないが、対人関係等への直接的又は間接的な影響を考慮して、後遺障害慰謝料の増額事由として評価する。」と判断しました。
過失割合について、本件事故は自転車同士の事故でしたが、加害者側は、原告車が時速約30キロメートルで走行していたものであるから、別冊判例タイムズ38「民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準(全訂5版)」(民事交通訴訟における過失相殺率の認定・判断基準を示したものです。)の「単車と四輪車との事故」を適用すべきとし、加害者側10%、被害者側90%とするのが相当であると主張しましたが、当事務所の立証活動により、裁判所は、Pさんの過失割合を35%と認定しました。
以上の結果、加害者側が、Pさんに対し、既払金のほか720万円を支払うとの内容で和解が成立し、Pさんに満足いただける結果となりました。
弁護士のコメント
男性の顔面醜状痕について、従来は逸失利益を否定する傾向にありましたが、男性の外貌に関する社会の評価の変化などもあり、症状の部位および内容に照らし、対人関係などの生活へ与える影響が大きい場合などには、ある程度逸失利益を認める傾向にあります。なお、仮に、外貌の醜状障害の逸失利益が肯定される場合においても、これが労働能力に直接的に影響する場面・程度が限られ、また労働意欲など被害者の主観的な要素も考慮されたうえで認められる傾向もあることを反映し、労働能力喪失率について、後遺障害等級表に基づく喪失率よりも低い喪失率が認定され、あるいは喪失期間を限定する裁判例も存在し、男性の場合には、よりその傾向が強く感じられます。また、外貌醜状の逸失利益が否定された場合は、心理的な影響等を考慮し、慰謝料を増額する形で認定する裁判例もあります(本件では、対人関係や対外的な活動に消極的になるなどの形で、間接的に労働能力に影響を及ぼすおそれがあると認められ、後遺障害慰謝料の加算事由として考慮し、後遺障害慰謝料を増額しております。)。
また、交通事故の損害賠償請求事件について、実務では「民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準 全訂5版 別冊 判例タイムズ第38号」を使い過失相殺率を算出し、積算された損害額にその過失相殺率を控除して損害賠償額を算出していますが、同基準には、「自転車同士の事故」については類型化されていません。この場合、同基準に類似の事故類型を準用することもできると考えられますが、自転車特有の事情を加味しなければならないこともあります。すなわち、自転車事故の過失を考えるにあたっては、「優者の危険負担(弱さや強さの程度を基準とし、弱者保護を図る)」や「要保護性修正(高齢者、児童、幼児、障害者などの弱者は保護性が高い)」を考慮しながら、当事者がいかなる「法規違反」をしているかをその判断の基礎としていくことになります。
本件のように、醜状障害や自転車同士の事故では争いとなることが多いと思いますが、事案に即した適切な解決ができるよう、弁護士に相談して頂きたいと思います。