Case 014 自賠責で非該当とされた醜状瘢痕につき、後遺障害等級第14級相当に該当するとされた事例
- 人身事故
- 訴訟・ADRあり
- 醜状障害(後遺障害)
担当弁護士北島 好書
事務所朝倉事務所
ご相談内容
依頼主
Nさん(10代・男性)
/
職業:小学生
福岡県在住の小学生のNさん(男児)は、足踏式自転車を運転し、信号機による交通整理の行われていない丁字路交差点を横断していたところ、直進してきた普通乗用自動車に衝突され、右大腿骨開放骨折等の傷害を負いました。
Nさんは、治療の甲斐あって治癒したものの、本件事故及び創外固定術により瘢痕(右大腿部に4か所の凹みを伴う瘢痕と手術痕、左大腿部に2か所の瘢痕)が生じ、これを残しました。
弁護士の活動
当事務所は、Nさんの後遺障害診断書等の医証を獲得し、後遺障害等級の申請を自賠責に行いましたが、自賠責は、「てのひらの大きさに達しない」として、自賠責保険における後遺障害には該当しないと判断しました(詳しくは、「醜状障害」を参照してください。)。
そのため、当事務所は適正な後遺障害等級の認定を受け、適正な賠償を受けるため、福岡地方裁判所に訴訟提起しました。
解決結果
本件訴訟における主な争点は、①後遺障害等級の認定、②過失割合でした。
後遺障害等級について、加害者側は、自賠責基準を前提として、「原告(Nさん)に残存している醜状痕は、いずれも膝より上部にあり、ハーフパンツを着用した場合にも露出しないものである。」「凹み自体大きくなく、また、色素変化も小さいもののように見えるため、脚全体を見れば、さほど目立たないものである可能性が小さくない。」旨主張し、Nさんの醜状障害を否定しましたが、当事務所の立証活動により、裁判所は「てのひらの大きさには達しないが一定の大きさに達した瘢痕が6か所に存在し、一部については薄くなってきているものの、全体として見れば相当程度に目立つものであると考えられる」として、同醜状障害を後遺障害等級第14級相当とした上で、後遺障害慰謝料を認定しました。
過失割合について、本件事故は、別冊判例タイムズ38「民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準(全訂5版)」(民事交通訴訟における過失相殺率の認定・判断基準を示したものです。)の事例(246)図が基本(50%:50%)となるところ、加害者側は、Nさんの横断を飛び出しと評価し、「原告の年齢を考慮しても、原告(Nさん)の過失が5割を下ることはない」と主張しましたが、当事務所の立証活動により、裁判所は「被告が制限速度を遵守していれば本件事故を回避できた可能性が高かったことからすると、被告の速度違反の点が本件事故の発生に寄与した部分はかなり大きなものと考えられる」として、Nさんの過失割合を22.5%と認定しました。
以上より、加害者側が、Nさんに対し、既払金のほか150万円を支払うとの内容で和解が成立し、結果として、大幅増額を実現することができました。
弁護士のコメント
本件は、事故による瘢痕は残存したものの、てのひらの大きさに達しなかったため、自賠責保険が醜状障害を否定した事案でした。
確かに、下肢の醜状障害の等級認定は、障害の程度として、下肢の露出面にてのひらの大きさの醜いあとを残すものであることが必要です。しかし、Nさんに醜状瘢痕が残存していることは動かし難い事実であって、Nさんが、これについて精神的苦痛を受けたことは明らかであり、また、本件はNさんの後遺障害の程度を慰謝料の判断要素にするものですから、Nさんの同瘢痕が後遺障害等級表のいずれの等級に当たるかを厳密に判断する必要はありません。そのため、同瘢痕による不利益を具体的に主張することができれば、本件のように、訴訟によって自賠責の判断が覆り、醜状障害としての認定を受けることができます。
過失割合については、別冊判例タイムズ38「民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準(全訂5版)」の事例は、あくまでひとつの基準に過ぎず、個々の事案が持つ特殊性によって過失割合は適宜修正されるべきですので、具体的な事故態様を検討することにより、加害者側の主張の不合理性を明らかにし、同事例とは異なる形で認定を得ることができます。
以上のとおり、自賠責で等級を否定されたとしても、訴訟により認定結果が変わる可能性がありますし、別冊判例タイムズ38「民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準(全訂5版)」の事例は裁判所を拘束することはありませんので、あきらめずに、弁護士に相談して頂きたいと思います。