Case 009 左上肢痛・痺れ、腰痛等の障害(後遺障害等級第12級)を残した被害者につき、労働能力喪失期間の伸張が認められた事例
- 上肢・手指(後遺障害)
- 人身事故
- 神経系統・胸腹部・脊柱(後遺障害)
- 訴訟・ADRあり
担当弁護士永野 賢二
事務所久留米事務所
ご相談内容
依頼主
さん(40代・女性)
/
職業:家事従事者
福岡県朝倉市在住の40代家事従事者のIさん(女性)は、信号機により交通整理の行われている丁字路交差点において、対面信号機の青色表示に従って普通乗用自動車で同交差点に進入したところ、対面信号機の赤色表示を看過して同交差点に進入した普通乗用自動車と衝突し、外傷性頚部症候群、腰椎捻挫、外傷性左坐骨神経痛等の傷害を負い、治療を継続しましたが、左上肢痛・痺れ、腰痛等の障害を残しました。
弁護士の活動
当事務所は、Iさんの後遺障害診断書等の医証を獲得し、後遺障害等級の申請を自賠責に行い、自賠責より、左上肢痛・痺れ等について「局部に頑固な神経症状を残すもの」として後遺障害等級第12級13号に、腰痛等について「局部に神経症状を残すもの」として後遺障害等級第14級9号に認定されました(詳しくは、「末梢神経障害」を参照してください。)。
そして、当事務所は、上記結果に基づき示談交渉を開始しましたが、加害者側は、「後遺障害は軽度である」旨の主張を行い、後遺障害逸失利益の労働能力喪失期間を5年としたため交渉は決裂しました。そのため、当事務所は、訴訟手続によって解決することを模索しましたが、本件事案は素因減額(素因減額とは、交通事故のほかに、被害者が有する事由(素因)が損害の発生または拡大に寄与している場合に、損害賠償の額を決定するに当たり、それを考慮して減額することをいいます。)の対象となる蓋然性が高かったため、交通事故紛争処理センター福岡支部に紛争解決のための申立てを行いました。
解決結果
本件事案における主な争点は、後遺障害逸失利益でした。
後遺障害逸失利益について、加害者側は、示談交渉時と同様、「労働能力喪失期間は5年とすべき」旨主張しましたが、当事務所の立証活動により、嘱託弁護士は、「本件後遺障害の内容・程度に鑑み、労働能力喪失期間を10年とするのが相当」とする斡旋を行いました。
以上の結果、加害者側が、Iさんに対し、既払金のほか約615万円を支払うとの内容で示談が成立し、結果として、大幅増額を実現することができました。
弁護士のコメント
被害者の既往疾患として頸椎椎間板・腰椎椎間板ヘルニア、胸郭出口症候群、手根管症候群、後縦靭帯骨化症(OPLL)、脊柱管狭窄症などが存在している場合には、症状の事故起因性が争われることが多いです。もっとも、事故以前にはそれらの既往疾患による症状はなく、事故により神経症状が出現したと認められる場合には後遺障害が認定されます。これらについては画像所見が得られていることが多く12級の認定がされやすいですが、既往症の存在を理由に素因減額がなされることも多いといえます。そして、本件事案はまさにその典型で、訴訟手続きにより、かえって賠償金が下がることもあり得ましたので、減額なく解決できて安堵しました。
労働能力喪失期間については、外傷性頚部症候群の場合には一般的に制限され、12級で10年程度、14級で5年程度とされる例が多くみられます。これは、外傷性頚部症候群などの神経障害は、この程度の時が経過すれば治癒していくことが医学的に一般的な知見であることに基づいているものであり、本件事案において、嘱託弁護士が労働能力喪失期間を10年としたことにはやむを得ないものでした(もっとも、当初の5年から10年に伸長することができました。)。
以上のとおり、紛争解決の手段として、必ずしも訴訟手続が最善であるとは限りませんので、事案に即した適切な解決ができるよう、弁護士に相談して頂きたいと思います。