松本永野法律事務所
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1. 暴力団事務所の排除とは

賃貸しているマンションや分譲マンションの一室、あるいは周辺の住宅が、暴力団の組事務所として利用されていることが判明した場合、賃貸人ないし周辺住民がどのような手段によって、使用の差止を求めることができるかについてご紹介します。

2. 暴力団事務所の危険性について

暴力団が日常的に事務所として使用する場所である組事務所は、周辺住民の生命・身体に危険を及ぼす可能性があります。
それは、当該事務所を使用している暴力団員による加害に限らず、対抗組織の暴力団との抗争事件に巻き込まれる可能性も含めて、様々な事件の発生が考えられるからです。

また、同じマンションに暴力団の組事務所が存在するということ自体、周辺住民にとっては恐怖感等を覚え、日常生活にすら支障を生じさせるものです。
賃貸アパートでは、そのような状況に周辺住民が耐え切れず退去することが考えられますが、分譲マンション等や一戸建てに住んでいる住民にとっては、そのような対策も容易にとることができません。
そのため、組事務所による建物の使用を禁止し、排除を検討することが重要です。

3. 排除の方法について

(1) 賃貸借契約の解除とは

組事務所の利用形態が、賃貸借に基づくものであるならば、同賃貸借契約を解除することによって、組事務所の排除を検討することができます。
考えられる方法として、賃料不払い等の一般的な契約違反があれば、それをまず検討します。そのような不払いがない場合でも、居住用建物を暴力団事務所として使用しているという、用法義務違反等が検討できる可能性もあります。
また、賃貸借契約書に暴排条項(暴力団等による使用や、居住等をさせた時には契約を解除できるとする条項)が記載されている場合には、暴力団事務所として使用していること自体が、契約解除原因となります。

一般の賃貸借契約においては、契約解除に際して、信頼関係の破壊という要件が検討される必要がありますが、暴力団事務所である旨を秘して使用しているような場合には、一般的にその危険性、反社会性等から信頼関係を破壊されるには十分であると解されます。

(2) 区分所有法に基づく請求とは

分譲マンションの一室ないし数室が、組事務所として使用されている場合には、区分所有法に基づく排除請求の検討が考えられます。

具体的な方法として、①共同の利益に反する行為の停止等の請求(同法57条)、②使用禁止の請求(同法58条)、③区分所有権の競売の請求(同法59条)、④占有者に対する引き渡しの請求(同法60条)があります。

これらの排除請求には、マンション管理組合の総会による議決が必要となり、57条では集会の通常決議(区分所有者及び議決権者の各過半数)、58条ないし60条では集会の特別決議(区分所有者及び議決権者の4分の3以上)が必要となります。
そのため、この方法を検討する際には、当該分譲マンションの住民の理解が不可欠であり、そのための説明会を開催するなどの方法が考えられます。

⑶ 人格権に基づく使用差し止めとは

暴力団が、一戸建ての家を所有して暴力団事務所としているなど、上記のような方法がとれない場合には、人格権に基づく使用差止請求の利用が考えられます。

一般的に、何人にも生命・身体・財産等を侵されることなく、平穏な日常生活を営む自由ないし権利(人格権)が認められています。この人格権が、受忍限度を超えて違法に侵害され、または侵害される恐れがある場合には、その被害者は加害者に対して侵害を排除し、または予防するために、その行為を差し止めることができるとされています。

裁判実務上、暴力団事務所の近くにおいて、居住あるいは店舗等を経営する近隣住民、若しくは事務所付近道路を日常的に通行する必要がある人等について、人格権侵害が認められています。

また、改正暴対法においては、人格権に基づく差止請求訴訟につき、国家公安委員会の認定を受けた都道府県暴力追放運動推進センターが、付近住民等から委託を受け、当事者として訴訟追行できる制度(いわゆる「適格団体訴訟制度」)が導入され、利用されています。

4. まとめ

暴力団事務所の排除に当たっては、その利用形態によってさまざまな方法があります。しかし、ご自身の生命・身体の安全確保や賛同者の取りまとめ、訴訟追行等、少数で対応することは困難です。

これについては、都道府県警察、都道府県暴力追放運動推進センター及び弁護士会等が連携して、その対応に当たっています。
暴力団事務所が周辺にあると判明した場合や、そのような噂で不安に思っていることがあれば、上記機関にご相談されることをおすすめします。