松本永野法律事務所
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1. 原状回復とは

賃貸住宅の原状回復トラブルについて、一般的な借家を念頭に置いてお話しします。テナント等の事業用の賃貸については考え方が違いますので、今回は対象外とさせていただきます。
不動産取引のトラブルには様々なものがあります。
そのなかでも、原状回復、敷金返還トラブルに関する相談件数が最も多いと言ってよいと思います。
独立行政法人国民生活センター(主に消費者問題の相談窓口)に寄せられた、賃貸住宅の原状回復に関する相談件数を紹介いたします。
平成18年以降、相談件数は増加傾向にあり、平成21年には全国的に1万6000件を超え、平成24年にも1万4000件を超える相談が寄せられています。

2. 原状回復トラブルについて(費用の負担区分・範囲について)

(1)原状回復費用の負担とは

原状回復トラブルとは、一言でいえば、原状回復の費用を賃貸人と賃借人のどちらが負担すべきかという問題です。
原状回復費用は、下記の3つの費用に分けられます。
(ア)賃借人が、日常的な通常の掃除を行っていた場合でも、生じた汚れ(これを「通常損耗」という)についての清掃費用。
→賃貸人負担となる。
(イ)賃借人が、日常的な通常の掃除を実施していなかったり、手入れを怠ったために生じた汚れ(これを「特別汚損」という)についての清掃費用。
→賃借人負担となる。
(ウ)次の入居者を確保するための清掃費用。
→賃貸人負担となる。
つまり、賃借人に故意・過失等があり、特別汚損と認められなければ、基本的には原状回復費用の請求ができません。これが基本的な実務の考え方だと思っていただいて結構です。

(2) ガイドラインとは

この実務の考え方を踏まえ、国土交通省は、「原状回復を巡るトラブルとガイドライン」(平成10年3月策定、平成16年2月改定、平成23年8月再改定)を策定しています。
ガイドラインは、原状回復を「賃借人の居住、使用により発生した建物価値の減少のうち、賃借人の故意・過失、善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損耗・毀損を復旧すること」と定義し、その費用は賃借人の負担としました。
そして、いわゆる経年変化、通常の使用による損耗等の修繕費用は、賃料に含まれるものとしました。これにより、原状回復は賃借人が借りた当時の状態に戻すことではないことが明確になりました。
もっとも、このガイドラインによって、原状回復の費用負担については一定程度明確になっていますが、ガイドラインだけですべてを解決できません。
なぜなら、
①ガイドラインでは、費用区分のすべてを明確に定められているわけではなく、
②特別汚損かどうかは事実認定の問題になり、事案によってケースバイケースだからです。

3. 原状回復特約について

では、原状回復について、すべて賃借人に費用負担させるという特約(通常損耗補修特約)を賃貸借契約に入れておけば、お互いの合意のもとで契約したのだから、問題ないのではないかという考え方もあると思います。
ここで、ある最高裁判決(最高裁平成17年12月16日判決)を紹介します。
この判例は、本来、賃貸人が負担すべき通常損耗の清掃費用を、賃借人に負担させるという特約を賃貸借契約の中にうたっていた事例です。
この特約について、最高裁は「賃貸人は、単に賃借人が負担すべき内容・範囲を(契約書の約定などで形式的に)示すだけでは足りず、本来は賃借人に原状回復義務のない、通常損耗分についても負担させるという趣旨を明記・説明した上で、負担することとなる、通常損耗の具体的範囲を明記・説明する必要がある」として、特約の有効性について厳格な規制を行っています。
また、上記判例以降、通常損耗補修特約については、特約が消費者契約法10条によって、無効とされる裁判例も多くなっています。
このような現状においては、まず契約締結段階ではガイドラインに沿って、賃貸住宅契約締結段階から賃借人・賃貸人双方で、費用負担区分などを明確に定める必要があります。そのためには、契約書の精査等細かい検討をしなければなりません。
次に、退去に際しては、原状回復の原因・内容等の丁寧な認定をした上、費用負担について、賃借人に詳しく説明をして合意を得る必要があります。

4. まとめ

以上のように、賃貸借契約締結段階、退去段階において、費用負担区分を明確にし、十分に説明する必要があります。
まずは専門家に相談してみて下さい。相談者の方にとって、最適な方法をアドバイスしてもらえるはずです。