3. 具体例について
もっとも、賃借人は何でもやっていいという話ではありません。
信頼関係が破壊されたという例も、もちろん散見されます。
(1) 無断譲渡・転貸とは
無断譲渡・転貸は、賃借人が勝手に第三者に賃貸不動産を使用させる行為であり、当事者間の信頼関係を前提とする賃貸借契約においては、強い背信性を持つ行為です。
そのため、多くの判例で、賃借権の無断譲渡・転貸を理由とする契約解除については認められています。
他方で、賃借人の親族を一時的に住まわせる等、やむを得ない事情があり、賃借人が経済的利益を得る目的ではない等の理由で、無断譲渡・転貸がなされた場合には、解除が認められない例も存在します。
(2) 賃料等不払いとは
賃料の支払は、賃借人の最も基本的な義務であるとして、これを怠ること自体に、賃貸人の信頼関係に及ぼす影響は大きいとされています。
もっとも、賃料不払いを理由に信頼関係が破壊されたといえるかについては、判例上、賃貸借期間の長短、賃料不払の程度、不払に至った事情、その他当該賃貸借関係における諸事情の一切を考慮すべきとされており、個々の事情を総合的に考慮して判断されます。
そのため、たとえ未払賃料が3カ月程度であっても、賃貸人が採算支払の催告をしたにもかかわらず、賃料の一部を支払ったのみで、支払いを遅滞し続けたことを理由に、契約解除を認めた裁判例もあります。(東京地判平成19年7月27日)
また、約38ヶ月にわたって、約定の賃料を満額払っていない場合でも、賃料減額請求が認められ、その旨を賃借人も従前より主張していた等の事情を考慮して、契約解除が認められないとした裁判例もあります。(東京地裁平成23年12月15日)
(3) 用法義務違反とは
無断増改築や、使用目的違反、合理的な範囲外の敷地利用、ペット飼育禁止特約違反など、用法義務違反を理由として、契約解除を求める例も多くみられます。
これらの違反については、その違反の態様、程度、経緯等を総合的に考慮して判断されます。
借家の無断増改築については、契約違反にとどまらず、既存の建物に変更・損傷等を与える行為として、賃貸人の所有権すら侵害する行為であるため、一般に強い背信性が肯定されます。
そのため、増改築の程度がごく小規模で、原状回復が容易である等の特段の事情がなければ、原則として、信頼関係が破壊されたものとして考えられます。
使用目的違反は、その逸脱の程度に重点がおかれており、例えば土地の賃貸借において、倉庫目的として賃貸した土地に、コンクリート造りの住居を建築して生活するといった、本来の目的とは全く異なる場合には、信頼関係が破壊されたと判断されやすい事情といえます。
合理的な範囲外の敷地利用やペット飼育禁止特約違反等については、その違反の程度が主たる考慮要素となります。一般的に受任できる程度を超えているといえる場合には、背信性が強いものとされ、信頼関係の破壊についても肯定される場合があります。
(4) 近隣迷惑行為とは
騒音等の近隣迷惑行為は、本来、その場所で生活する賃借人同士の不法行為の問題ともいえますので、それが当然に賃貸人との間で信頼関係の破壊につながるものではありません。
もっとも、自己の建物を賃借しているものが、近隣住民に対して不法行為を行うことは、賃貸人としても信頼関係の構築に影響するものです。また、マンションやアパート等の借家契約において、騒音等で隣室の住人等とのトラブルが発生した場合には、契約を解除できる旨の規定が入れられていることも多く存在します。
このような場合には、その迷惑行為の程度や付近住民の状況、賃借人の態度(迷惑行為をやめるように警告したのに従わない等)を総合的に考慮して判断されます。