3. 労使間紛争の種類について
(1) 未払い残業代の請求とは
(ア)労使間の紛争でもっとも多い紛争類型の一つが、労働者から使用者側に対してなされる未払い残業代の請求です。
残業代には、法律で定められた労働時間の上限(1日8時間)は超えないけれど、①会社で定めた所定労働時間は超えている場合の残業代(「法定内残業代」といいます)と、②法律で定められた労働時間の上限を超えた場合の残業代(「法定外残業代」といいます)があります。
①法定内残業代については、割増賃金を支払うかどうかを会社が就業規則等で決定できますが、②法定外残業代については、類型ごとに割増賃金が定められています。
(イ)残業代請求に対し、企業側が定額の手当を支払うことで、残業代とみなしているから問題ないとか、管理職だから残業代は発生しないなどと主張することがあります。
しかし、現実の残業時間に応じて算定される残業代が、定額の手当を超える場合は差額を支払わないといけません。また、残業代を支払わなくてもよい「管理監督者」(労働基準法41条2項)にあたるかどうかは、会社での役職名ではなく、実際の職務内容に応じて判断されることになります。したがって、管理職だから残業代を支払わなくてもよいとは限りません。
(ウ)あとからトラブルになるのを防ぐためには、法律の専門家の意見を聞いた上で、ルール作りをすることが重要です。
(2) 解雇無効の訴えとは
無断欠勤や社内外の人間とのトラブルなど、企業側から見ると問題の多い従業員はいるもので、会社を辞めて欲しいと思うケースも多いと思います。
しかし、現実には従業員を企業側の都合で一方的に辞めさせるのはとても難しく、両者の話し合いで退社してもらったと思っていても、あとから解雇無効を主張されるようなこともあります。
このような場合、仮に解雇が無効だったと判断されると、当該従業員が会社を辞めてから無効の判断がされるまでには、相当な期間が経過していると考えられます。企業側にすると、かなり大きな金銭的負担を強いられるリスクがあります。
そのようなことにならないよう、従業員を辞めさせることについては、十分に慎重な検討をするべきでしょう。
(3) その他
この他にも、パワハラやセクハラに関する問題、業務中の事故に関する問題、従業員の発明等の知的財産権に関する問題など、労使間で紛争になり得るケースは多数あります。
このような労務管理上の問題は、法律の知識が不十分な企業側の判断で処理されることも多く、そのような場合、従業員側がなんら行動を起こさない限りは、問題が顕在化することはありません。しかし、知らないうちに、法律上認められないような処理をしてしまっていることもあります。
あとから大きなトラブルにならないよう、正確な法律の知識を前提とした労務管理が重要です。