3. 懲戒の手段について
(1)譴(けん)責・戒告とは
「譴(けん)責」とは、始末書を提出させて将来を戒めることです。他方、「戒告」とは、将来を戒めるのみで、始末書の提出までは求めないことです。つまり、口頭又は文書による注意です。
上記処分は、この処分の効力として、直ちに当該従業員に実質的な不利益を課すものではありません。
もっとも、人事考課の査定上で、当該従業員に不利に考慮することはできます。 また、就業規則に明記していれば、上記処分が複数回なされたことを理由として、より重い懲戒処分を行うことも可能です。
(2)減給とは
「減給」とは、通常ならば従業員が現実になした労務提供に対応して、受けるべき賃金額から一定額を差引くことです。業務を行うことについて、懈怠や職場規律違反に対する制裁として行われます。仮に、「罰金」などの他の名称で行われていたとしても、法律上は「減給」とみなされます。
「減給」は、労働基準法91条により、「1回の額が平均賃金の1日分の半額を超え、総額が1賃金支払期における、賃金の総額の10分の1を超えてはならない」とされています。その意味は、①1つの事案に対しては、減給の総額が平均賃金の1日分の半額以内でなければならないこと、②1賃金支払期に複数事案に対する減給をする場合、その総額が当該賃金支払期における、賃金総額の10分の1以内でなければならないことです。
(3)降格とは
「降格」とは、役職、職位、職能資格などを引き下げることです。降格は、企業の人事権の行使として行うだけでなく、懲戒処分としても行使することができます。
もっとも、懲戒処分として「降格」を行うためには、就業規則に懲戒処分としての降格を具体的に明記しておく必要性があります。
(4)出勤停止とは
「出勤停止」とは、服務規律違反に対する制裁として、従業員との労働契約はそのままにしながら、従業員の就労を一定期間禁止することをいいます。いわゆる、「自宅謹慎」もこれに含まれます。
この処分を対象とした明示の法規制はありませんが、不当に長期に渡る場合などは、「公序良俗」(民法90条)に反するものとして、不相当な部分が無効とする裁判例もあります。
(5)懲戒解雇とは
「懲戒解雇」は懲戒処分の中で最も重い処分であり、加えて解雇予告手当の支払もなく、即時になされて、退職金の全部又は一部が支払われないことが多いです。
懲戒解雇にあたると考えられるのは、「懲戒」という明記がされることにより、秩序(規律)違反に対する制裁としての解雇であることが明らかにされ、再就職の重大な障害となりうるという、実質的な不利益があることです。
なお、懲戒解雇に伴って退職金が不支給とされた場合には、仮に懲戒解雇が有効とされても、退職金不支給の適法性は、別視点から判断されるので、注意する必要があります。