1. 労働基準法による解雇制限と予告義務とは
雇用に期間の定めがなければ、各当事者はいつでも解約の申込みをみなすことができ、雇用は解約の申込み後、2週間の経過によって終了します。(民法627条1項)つまり原則として、期間の定めのない継続的契約関係については、契約当事者が契約によって過度に拘束されることを防ぐため、いつでも契約関係を終了させることができます。
もっとも、いつでも契約関係を突然終了させることができるとすると、相手方に予期しない損害が発生するおそれがあります。そこで、2週間という予告期間を置けば契約関係を終了させる、また使用者からすれば、解雇できるという「解雇の自由」が認められています。
しかし、使用者による「解雇の自由」は、経済的な余裕がない労働者へ与える打撃の大きさから、労働法による規制がなされました。労働基準法が、民法上の解雇の自由を前提にしながら、業務災害・産前産後の場合の解雇の制限(同法19条)と解雇の予告義務(同法20条)を規定しました。この項では、これらについて取り上げます。
2. 労働基準法による解雇制限について~業務災害と産前産後の休業者~
(1)業務上災害による療養者の解雇制限とは
使用者は、労働者が業務上負傷し、または疾病にかかり療養のため休業する期間及びその後の30日間は、その労働者を解雇することはできません。(同法19条1項)労働者が業務上の負傷・疾病の場合に、療養補償(同法75条)を安心して受けることができるようにするためです。この規定は、労働基準法が制定当初から設けてきた解雇禁止の規定です。
しかし、例外も2つあります。1つは業務災害による療養で、療養開始後3年を経過しても負傷又は疾病が治らない場合に、使用者が打切補償を行った場合です。(同法81条)2つめは、天災事変その他やむを得ない事由のために、事業の継続が不可能となった場合に、その事由について労働基準監督署長の認定を受けた場合です。(同法19条1項但書後段、2項)
(2)労働基準法による産前産後の休業者の解雇制限とは
使用者は、産前産後の女性が労働基準法65条により休業する期間(出産する予定の女性が休業を請求した場合の6週間、産後8週間)、及びその後の30日間も解雇してはならないとしています(同法19条1項)。これらの規定も、産前産後の休業を安心して取得し育児に専念できるよう、労働基準法が制定当初から設けてきた解雇禁止の規定です。
もっとも、天災事変その他やむを得ない事由のために、事業の継続が不可能となった場合には、その事由について労働基準監督署長の認定を受ければ解雇できるます。これは、業務上災害による療養者と同じです(同項但書後段、2項)。
3. 労働基準法による解雇の予告義務について
(1)解雇予告義務の内容とは
使用者が労働者を解雇しようとする場合、少なくとも30日前にその予告をしなければならないとされています。他方で、30日前に予告をしない使用者は、30日分以上の平均賃金を支払わなければなりません。(同法20条1項)
つまり、労働者に30日分の平均賃金を確保させ、次の生活をスムーズに行うための手当と考えられます。この規定も、労働基準法が立法当初から規定している基本的な解雇規制です。
この規定に違反すると、6か月以下の懲役又は30万円以下の罰金が科せられます。(同法119条1号)
(2)予告義務違反の解雇とは
予告義務違反の解雇の効力については、法律上に明記されていません。
そこで、裁判上の争いになった場合について、判例をみましょう。
①解雇予告規定違反を理由に、解雇無効確認と解雇期間中の賃金支払を請求する事案では、解雇を有効として30日分の未払賃金請求のみを認容します。
②即時解雇の効力は争わず、解雇予告規定に基づく予告手当の請求だけをする場合には、その請求を認容する傾向があります。
(3)解雇予告義務の適用の有無とは
解雇予告義務は、もちろんすべての労働者に適用されるわけではありません。①日日雇い入れられる者、②2か月以内の期間を定めて使用される者、③季節的業務に4か月以内の期間を定めて使用される者、④試用期間中の者には、原則として、解雇予告義務は適用されません。(同法21条)
4. まとめ
以上、労働基準法上による解雇制限と、解雇の予告義務という使用者にとって重要な規定をご説明しました。使用者にとって、従業員を解雇する場合には、様々な面から法的な視点を持ってご対応していく必要性があります。
事前に法的な視点なく対応してしまったために、紛争が生じ、多大な労力と時間を奪われてしまうおそれもあります。
もし、会社で従業員の解雇をご検討されている場合には、事後の紛争を回避するためにも、何らかの対処をする前にぜひご連絡ください。