Case 009 土地所有者より建物収去土地明渡請求訴訟を提起された事例において、口頭で成立した使用貸借契約の存在を主張立証し、使用借権があることを前提とする訴訟上の和解を成立させた事例
- 不動産問題
担当弁護士堀 大祐
事務所長崎事務所
ご相談内容
依頼主
Iさん(70代・女性)
長崎県在住のIさんは、叔母から県内にある建物を相続しました。もともとは、建物とその敷地は同じ所有者でしたが、相続によって建物と敷地の所有者が別々となり、それぞれに相続があって疎遠な親戚関係の者が土地と建物を所有する関係となっていました。また、特に土地の利用権限についての取り決めもありませんでした。
Iさんは、建物を相続するにあたって、敷地の利用権限についても明確にしておきたいと思い、司法書士に同行してもらって他県に住む敷地の所有者(Aさん)に会いに行きました。その際、Iさんは、Aさんに対し、「建物はまだ丈夫なので使っていきたい。」と伝えたところ、Aさんは、「地代は請求しないが、自分が遠方なので管理をきちんとお願いしたい。」との回答がされました。
その後、Iさんが建物を他人に賃貸するなどしていたところ、3年ほど経過して突然、Aさんから不法占拠を理由として建物について処分禁止の仮処分命令の申立てを受けたことから、当事務所にご相談に来られました。
弁護士の活動
その後、AさんからIさんに対する建物収去土地明渡請求訴訟が提起されましたので、当事務所は、Iさんの訴訟代理人として対応しました。
当事務所は、Iさんより、過去の経緯を詳細に聞き取った上、Aさんとの使用貸借契約(無償での土地利用)が成立していること、Iさんは現在も建物を使用収益しており使用貸借契約の相当期間は経過しておらず、Iさんには土地の利用権原がある旨の主張を行いました。
また、立証活動にあたっては、第三者的な立場としてAさんとの話し合いに同行した司法書士から詳細に事情を聞き取って陳述書を作成し、これを書証として提出するなどしました。
解決結果
双方の主張立証がある程度進んだ段階で裁判所から心証開示があり、和解の提案がありました。
裁判所としては、土地の使用貸借契約が成立しているとの心証を開示した上で、①今後10年間のIさんの土地の使用貸借を認め、②使用貸借終了時点でIさんが建物の所有権を放棄すること(仮に建物を解体する場合の解体費用は相手方負担とする)、③建物の処分禁止の仮処分によって建物を利用できなかった期間の賃料相当損害金の支払い、④不法占拠呼ばわりされたことによる慰謝料の支払い、といった和解案を提示しました。
その結果、双方が裁判所の上記和解案に応じることとなり、裁判上の和解が成立しました。
弁護士のコメント
今回のケースでは、IさんがAさんに会いに行く際に司法書士を同行させていたことが大きなポイントだったと思います。
当事者のみでの話し合いの場合、その際に契約書面を作成している場合は別として、口頭での場合はどのような合意が成立したかを立証することは非常に困難です。
そのため、話し合いで決まった合意内容は、後の紛争に備えて、弁護士に相談して契約書を作成することをお勧めします。