今回は、給料や預金を差し押さえられた場合の対処法を説明します。
 
差押えを受けると生活に大きな支障を及ぼすことがあるため適切に対処する必要がありますが、一般の方はどうすればいいかわからず困ってしまうケースが多いので、以下の説明を読んで正しい知識を身につけておきましょう。


 

1.差押えまでの流れ

(1)債務名義の取得について

まず、支払いが滞っている借金の債権者は、すぐに債務者の財産を差し押さえることができるわけではなく、差押えをするためには「債務名義」が必要になります。
 
「債務名義」とは、強制執行によって実現されることが予定される請求権の存在、範囲、債権者、債務者を表示した公の文書のことをいいます。代表的なものとしては、訴訟の判決正本や公正証書などがあります。
 
そのため、消費者金融などの貸金業者は、債務者による借金の支払いが滞ると「債務名義」を取得するために、支払督促(貸したお金を相手方が支払わない場合に、申立人側の申立てのみに基づいて、簡易裁判所の書記官が相手方に支払いを命じる略式の手続)や訴訟によって債務名義を取得します。また、支払督促や訴状は、裁判所から「特別送達」という書留便で債務者に郵送されてきます。
 
つまり、裁判所から届いた支払督促や訴状を放置すると、債権者に債務名義を取得され、給料や預金を差し押さえられる可能性がありますので、裁判所から何らかの書類が届いた場合は、何の書類か分からなくても絶対に放置しないようにしてください。 一方、貸金業者から債務者に直接送られる書類は、書類の名前に「差押通告書」などと記載されていても、これを放置しても債務名義を取得されることはありません。


 

(2)債権執行の流れ

債務名義を取得した債権者は、裁判所に対して給料や預金の差押命令を求める申立てを行い、それを受けて裁判所が差押命令を出します。
 
差押命令が出ると、裁判所は、第三債務者(給料では勤務先、預金では銀行などの金融機関のことをいいます。)に債権差押命令書が送られます。その1週間後くらいに債務者にも上記命令書が送られます(債務者が差押えを知ってすぐに第三債務者から預金を引き出したりしないためです)。
 
なお、債権者は、通常、差押命令の申立てとともに、第三債務者に対する陳述催告の申立てを行い、それを受けて裁判所が第三債務者の陳述催告を行います(民事執行法147条1項)。
 
陳述催告を受けた第三債務者は、給料や預金の有無及び金額、任意に支払に応じるか否か、支払いに応じない場合の理由などを裁判所に陳述します。
 
その後、債権者は、第三債務者から回収をすることができた場合、裁判所に取立届を提出します。

2.差押えの効果

(1)給料の差押えについて

給料の差し押さえを受けると、債務者は、差押えられた給料を雇い主から受け取ることができなくなります。
 
もっとも、給料のうち、4分の3に相当する額は差押えが禁止されていますの(民事執行法152条)、債権者が差し押さえることができるのは4分の1相当額に過ぎません。(差押禁止財産とは)なお、4分の3の金額を算出するにあたっては、給料の額面額ではなく、所得税、社会保険料などを控除した実際の手取り額が基準とされます。
 
とはいえ、給料の差押えは、債権者が請求している債権額が全額回収されるまで継続的に(月給であれば毎月)続きますし(民事執行法151条)、賞与(ボーナス)も対象となります。
 
また、給料の差押えを受ければ、自分の勤務先に経済的に困窮していることを知られてしまうことになりますし、給料の一部を債権者に支払うという事務的な負担を課すことになります。勤務先は、給料の差押えを受けたことを理由に債務者を解雇することは基本的にできませんが、上司や同僚に知られることで勤務先での評判を落としたり、人間関係が悪化することで事実上働きづらくなり、最終的には勤務先を自主退職せざるを得なくなるケースも多く見かけます。


 

(2)預金の差押えについて

預金には、給料のような差押禁止部分はありませんが、差押えの効力は、差押命令が銀行などの金融機関に送達された時点で口座にある残額にしか及びませんので、その後に入金された分は引き出しをすることも可能です。また、誤解されている方もいらっしゃいますが、一般的に預金の差押えを受けても、口座が凍結されるということはありません。
 
ただ、既に債権者に知られてしまった預金口座を利用し続ければ、再度、預金の差押えを受けるおそれがありますので、注意しましょう。

3.差押えを解除する方法

(1)債権者への弁済

差押えを解除するために最も手っ取り早い方法は、債権者に対して借金を返済することです。
 
もし、借金を支払うお金はあるけど相手から裁判された際の対応を誤って差押えを受けてしまったような場合には、債権者に事情を説明した上で、速やかに借金を返済するのがよいでしょう。
 
とはいえ、多くの場合は債権者への一括弁済は困難な状況にあると思います。その場合は、法的整理(自己破産、個人再生)を通じて差押えを止めることが可能です。


 

(2)自己破産による方法

ア 破産開始決定前 裁判所に自己破産申立てをしても、通常、破産開始決定が出るまでに1か月程度かかることがあります。
 
そのため、自己破産の申し立てをした場合、破産開始決定前に強制執行中止命令の申し立てをすることができ、中止命令が出れば破産手続開始決定を待たずに差押えが中止されます(破産法24条柱書本文1号)。
 
イ 管財事件の場合
 
管財事件(破産管財人が選任される破産手続きのこと 管財事件と同時廃止事件)の場合、開始決定と同時に既にされている給料や預金の差押えは効力を失います(破産法42条2項)。
ただ、給料や預金の差押命令を出した裁判所は、別の裁判所でなされた破産開始決定を当然に知り得るわけではありません。そのため、実務上は、破産管財人が執行裁判所あてに債権執行取消の上申書を速やかに提出し、執行裁判所が職権でこれを取り消す扱いとなっています。
なお、破産開始決定後に支給される給与などは「新得財産」として、債権者に配当される財産の対象(破産財団)にはならず、差押の対象にもなりません。
 
ウ 同時廃止事件の場合
 
一方、同時廃止事件(破産管財人が選任されずに破産手続の開始と同時に破産手続を終了させる手続き 管財事件と同時廃止事件)の場合、破産手続の開始決定及び廃止決定がなされた段階で差押えが一旦中止され、債権者が破産者の給料等から債権回収を行うことはできなくなります。しかし、この時点では、債権者による債権回収が一旦ストップするにすぎず、債務者が差し押さえられた給料等を受け取ることはできません。
その後、免責許可の決定により差押えの効力がなくなり、この段階になってはじめて債務者自らが給料等を受け取れるようになります。


 

(3)個人再生による方法

ア 個人再生の開始決定前
 
申立後、中止命令の申し立てをすることができる点は自己破産手続の場合と同様です(民事再生法26条1項2号)。
 
イ 開始決定後
 
個人再生手続の場合、個人再生の開始決定により一旦差押えが中止され(民事再生法39条1項)、認可決定により差押えが効力を失います(民事再生法184条)。
また、開始決定後は、強制執行取消の申立てをすることができ(民事再生法39条2項)、それが認められれば、認可決定を待たずに差押えが効力を失います。

4.まとめ

給料や預金の差押えを受けると、債務者の生活に大きな支障が生じ、生活の再建が困難な状況に陥りかねません。
 
そのため、借金の整理を考えている方は、債権者から差押えを受ける前に早めに弁護士に相談に行くのがよいでしょう。