1.消滅時効とは
(1)債権自体を消滅させることができる制度を「消滅時効」といいます
消滅時効とは、債権者と債務者との間の取引等がない期間が長期間に及んだ場合に、債権自体を消滅させる制度です。
消費者金融等からの借り入れと返済を繰り返している債務者を例にすると、債権者から追加で借り入れをしたり債権者から返済するよう請求されたりすることなく、また、債務者からも返済を行ったり債務があることを承認したりすることなく一定の期間が経過した場合、その債権は消滅時効にかかります。
なお、債権者からの請求と書きましたが、これは裁判上の請求を意味し、支払督促や訴訟などの裁判所を通じた手続きはこれに含まれますが、債権者自身から直接届く請求書等はこれに含まれません。
(2)消滅時効にかかるまでの期間
消費者金融や銀行などからの借り入れの場合には10年間、家族や友人などからの個人的な借り入れの場合には5年間で消滅時効にかかります。
(3)債務を消滅させる意思を債権者に伝える必要があります
消滅期間が経過しても、消滅時効を援用(債務を消滅させる意思を債権者に伝えること)しなければ、消滅時効の効果は生じません。
したがって、消滅時効期間の経過後に、うっかり債務を支払ったり債務を承認したりすると、消滅時効の権利を放棄したものとみなされ、債務を消滅させることができなくなる可能性がありますので、くれぐれも注意が必要です。
2.手続きの流れ
(1)相談~受任
消滅時効の期間が経過していることを確認できれば、あとは時効援用の通知を送るだけなので、これといった手続きはありません。
借金の相談を受けている際に時効期間の経過が判明する場合が多いです
弁護士等のところに相談に来た時点ですでに時効期間が経過している場合でも、はじめから時効期間が経過していることを認識して相談に来られる方より、むしろ借金を返せなくて困っているという相談を受けている中で、時効期間が経過しているのではないかとの疑いが生じる場合の方が多いと言えます。
そのような場合には、まずは時効期間が経過していることを確認するために債権者から取引の詳細を記載した書面(取引履歴)を取り寄せる必要がありますので、弁護士等が債務整理の受任をした上で、各債権者に受任の通知を送り、取引履歴を取り寄せます(もっとも、債務者からの聴き取り等で時効期間の経過が明確な場合には、最初から時効援用の通知を送ることもあります。)。
取引履歴の内容で今後の方針が変わります
取引履歴の取り寄せは債務者本人でもできますが、取引履歴の内容によって、消滅時効を援用して事件が終了なのか、あるいは自己破産等を含めた債務整理手続きが必要になるのかなどの今後の方針が変わってきます。その後の手続きを弁護士に依頼するつもりの方は、書面の取り寄せ段階から弁護士に依頼しておくとよいでしょう。
(2)取引履歴の取得~時効援用の通知
取引履歴を取得し、時効期間が経過していることが確認できたら、時効援用の通知を送って手続きは終了となります。弁護士が時効援用通知を送る場合、時効を援用したことを明確にし、後から紛争が蒸し返すことを防ぐためにも、時効援用通知は内容証明郵便で送付するのが通常です。
時効援用通知を送る前に確認すべきこと
取引履歴の中には、借り入れや返済の記録は記載されていますが、支払督促や訴訟などの裁判上の請求を行ったかどうかは明記されていないことがあります。
そのような手続きがなされていれば、債務者に裁判所からの書面が届いたことがあるはずなので、債務者自身が認識していることが普通ですが、債務者の中には、裁判所から届いた書類を確認していないこと等により、裁判上の請求をされたことに気付いていない方もいます。
そのような心配がある場合には、時効援用通知を送る前にそのような請求がなされていないかどうかを確認します。
時効援用の通知は、債務者ご自身でも可能です
時効援用の通知には、契約番号等によって債権を特定した上で時効を援用する旨を記載すればよいだけなので、必ずしも弁護士等から送付しなくても債務者ご自身で時効を援用することもでき、そうすれば弁護士費用が節約できます。
もっとも、時効の援用のみであればそれほど高い報酬をとられることはありませんので(1社当たり3万円ないし5万円程度)、ご自身で通知を送るのが不安な方は、弁護士等の専門家に依頼すればより安心できるでしょう。
3.消滅時効は援用しないと効果が生まれず、その後も注意が必要です
以上が時効援用のための手続きで、それほど難しいものではありません。
もっとも、注意しておかなければならないのは、先ほども述べたとおり、消滅時効は援用して初めて効果が生じ、それまでは従来通り借金が残っているということです。
したがって、時効期間が経過すれば債権者からの請求がなくなるわけではなく、その後も消費者金融等からの請求書等が届くことはあります。
そして、先ほども少し触れたとおり、債権者に1円でも払ってしまったり、債務を承認(債務の存在を認める内容の書面に署名・押印して返送するなど)してしまったりすると、時効の援用権を放棄したものとみなされ、それ以降、時効を援用して支払いを拒むことができなくなる可能性があります。