1. 連帯保証人の責任とは
賃貸借契約を締結する際に、連帯保証人を求めることも多くみられます。
連帯保証人を求める理由は、将来生じるかもしれない、賃借人の賃貸人に対する債務(未払賃料、原状回復費用等)を担保するためです。
賃貸借契約においては、同様の趣旨で、敷金の差入も行われていますが、当然差し入れられた敷金の額までしか担保としては機能しないため、さらなる債務に備えて連帯保証人を立てることは有効です。
もっとも、賃貸借契約から生じた賃借人の債務を、すべて連帯保証人に求められるかについては、事案により異なる場合があります。
2. 連帯保証について
連帯保証とは、保証契約の一種ですが、通常の保証契約と異なり、催告の抗弁権(民法452条、保証債務の履行を請求する前に、主たる債務者へ催告を求めることのできる権利)、及び検索の抗弁権(民法453条、原則として主たる債務者の財産に対し、先に執行するように求めることのできる権利)を有していない点が特徴です。
すなわち、保証人は、主たる債務者が債務の履行を求められても、弁済することが全くできない場合に、はじめて責任を負う立場であるのに対し、連帯保証人は、完全に主たる債務者と同等の責任を負う立場となります。
そのため、仮に賃借人が賃料を滞納しているような場合には、賃貸人は、いきなり直接連帯保証人に対し、同未払賃料と同額の支払いを求めることが可能です。
なお、連帯保証を含め、保証契約は書面によってなされなければ効果を生じないことに注意が必要です(民法446条2項)。
3. 連帯保証人が責任を負う範囲について
(1)連帯保証が及ぶ範囲とは
連帯保証の及ぶ範囲は、その合意によって決まります。
そのため、「本件賃貸借契約より生ずる、賃借人の一切の債務を負担する」という内容の連帯保証契約が締結されていた場合、その範囲は、賃料・更新料・原状回復費用・強制執行費用等、まさに賃借人に生じる債務一切です。これは、賃借人が失踪した後であっても、賃貸借契約が継続する以上原則として及ぶことになります。
(2)更新後の債務とは
もっとも、通常の居住用建物賃貸などは、2年程度の期限の定めのある賃貸借契約であり、厳密には、更新後の契約は当初の契約とは別の契約と考えられます。
そこで、契約更新後に賃借人に生じた債務についても、当初の契約時の連帯保証人は責任を負うのかについて問題となりました。
これについては、平成9年11月13日の最高裁判決で、「期間の定めのある建物の賃貸借において、賃借人のために保証人が賃貸人と保証契約を締結した場合には、反対の趣旨をうかがわせるような特段の事情のない限り、保証人が更新後の賃貸借から生ずる賃借人の債務についても、保証の責めを負う趣旨で合意がされたものと解すべきである」と示されています。
そのため、賃貸借契約が更新されて数十年にわたっている場合であっても、更新後は責任を負わない旨の条項がある等、特段の事情がなければ、原則として連帯保証人はその間に生じた賃借人の債務について、責任を負うことになるのです。
(3)連帯保証人への請求が、権利濫用とされるケースとは
もっとも、賃借人が全く賃料を支払わないままなのに、長期間更新を繰り返した場合や、賃借人が失踪した場合であっても、無制限に連帯保証人に請求できるとすると、連帯保証人の責任は膨大なものとなります。
そこで、このような賃借人の状態を知りながら放置しておいた賃貸人が、同債務をすべて連帯保証人に請求することは、権利の乱用として許されないとする裁判例があります。
東京高裁の平成25年4月24日判決では、「賃借人が賃料不払を続けながら、区営住宅賃貸建物を明け渡さない事態が生じた場合には、賃貸人は、保証人の支払債務が保証契約に即して、通常想定されるよりも著しく拡大することを防止するため、保証人との関係で、解除権等の賃貸人としての権利を、状況に応じて的確に行使すべき信義則上の義務を負うところ、賃貸人が権利行使を著しく遅滞したときは、著しい遅滞状態となった時点以降の賃料ないし賃料相当損害金の保証人に対する請求は、信義則に反し、権利の濫用として許されない」と述べられています。
同裁判例は、区営住宅のケースですが、民間の賃貸借契約においても、長期間の賃料未払いを知りながら、何ら契約解除等の措置を取らずに、連帯保証人への請求が信義則に反するとされた例もあります。
そのため、賃貸人としては、賃借人の債務が増大している場合には、連帯保証人に対してその旨を通知する等、連帯保証人に不測の不利益が生じないような措置を講じる必要があるとされています。
4. まとめ
上記の通り、連帯保証人は賃借人と同等の地位に立って、その債務について責任を負いますが、信義則上賃貸人としても、そのような連帯保証人に対して配慮する必要があります。連帯保証人の存在に甘んじて、賃借人の債務不履行を放置することは、結局賃貸人の不利益に帰ってくる場合があるのです。
むしろ、賃料をずっと滞納しているような賃借人とは、他の事情でトラブルとなる場合も多く、そのような状態を解消し、別の賃借人に借りてもらって正常な状態に戻すことが、結局は賃貸人の利益となることも多いと思います。
もちろん、連帯保証人は賃借人の債務を担保するためにいるのですから、連帯保証人が全く責任を負わないということは原則としてありません。しかし、どこまでの支払いを求められるのかについては、事案に応じて異なり、専門家の意見を聴くなどして、よく検討することが大切です。