1.過払い金計算でおこりやすい問題は冒頭ゼロ計算などで対処
(1)過払金計算を古い取引履歴は廃棄したなどと言って相手方が開示しないケース
過払金計算(引き直し計算)をするために、貸金業者から取引履歴の開示を要求しても、「廃棄した」などを理由に相手が履歴を開示しない場合があります。すると開示された取引履歴には最初から一定額の貸付残高があり、それを前提にそれ以降の取引及び残高が記載されていますが、そこまでの取引履歴が開示されていないことから、その部分について利息制限法に基づく引き直し計算を行うことができません。
<対抗手段として「冒頭ゼロ計算」をします>
「冒頭ゼロ計算」とは、その名のとおり、相手方が開示した取引履歴の最初の貸付残高をゼロとして過払金を計算する方法です。
開示された取引履歴以前にも取引が存在していた以上、その時点ではまだ借金は完済されていなかったことになるため、それをゼロと考えるのは一方的に借主に有利な計算方法のようにも思えます。
しかし、それ以前の取引の期間や内容によっては、その時点ですでに過払金が発生している可能性もあるため、必ずしも借主にとってのみ有利な計算方法というわけでもありません。
したがって、過払金が発生している可能性も考慮の上で、当初の残高をゼロとみなして引き直し計算を行うことは、双方にとっての公平性を考えた上で合理的な計算方法といえます。
仮に、相手方が、引き直し計算によっても貸付残高があったと主張するのであれば、そのことの立証は相手方が行うべきことになります。
(2)開示された取引履歴以前の取引の内容を借主がまったく覚えていない場合や、取引期間が短いなどの理由によりその時点では過払金は発生していないと予想されるケース
上記の冒頭ゼロ計算をして過払金を請求すればとくに問題ないでしょう。
(3)開示された部分より前の取引期間が長期間に及ぶようなケース
この時点ですでに過払金が発生していることが明らかということもあり得ます。そのような場合に冒頭の貸付残高をゼロとして計算することは、実際の過払金の金額よりも少なく見積もった請求をすることになってしまうため取引履歴を再現士、仮計算を試みます。
<少しでも有利になるように取引履歴の再現による仮計算を試みます>
取引履歴が開示された以前の部分については、借主本人の記憶、手持ちの契約書・領収証や、銀行の取引履歴等をもとに、取引履歴を再現をし、
その再現した取引履歴を具体的な借入・返済の事実として主張していくことになります。その当時の出来事(結婚、子どもの出生、転職など)や生活状況等と関連づけながら主張すると、再現された取引履歴も説得力を持つことになるでしょう。また、開示されている部分の取引履歴自体も、それ以前の取引履歴を再現する上で重要な参考資料になります。
このようにして再現した取引履歴を裁判所が最終的にどう判断するかはわかりませんが、こちらにとって冒頭ゼロ計算よりも有利になるような再現履歴が作成できるのであれば主張してみる価値はあると考えています。