未分割遺産の管理と処分

1.はじめに
 被相続人が死亡して,遺産が残された場合,相続人は遺産分割協議を行って遺産を分配する必要が生じます。
 しかしながら,遺産の調査や遺産分割の方法に争いが生じる等,遺産分割が終了するまでに長い年月を要することも稀ではありません。
 では,その間,各相続人は遺産分割が未了の遺産をどのように管理しなければならないのでしょうか。

2.共同相続人の権利
遺産分割協議が未了の間の遺産について,各相続人はどのような権利を有するのでしょうか。たとえば,未分割の不動産の共有持分を譲渡したり,持分に応じた預金を引き出すことができるでしょうか。
まず,民法898条は,未分割の相続財産について,「共有」と規定しています。この「共有」については,相続人は相続財産を構成する個々の財産に対し,具体的な持分を持たず,遺産全体に対して潜在的な持分を持つにすぎないとする考えもありますが,判例は,相続財産の共有は,民法249条に規定する「共有」とその性質を異にするものではないとし,相続人による,未分割不動産の共有持分の譲渡を認めています。
では,預金についても同様に持分に応じて引き出すことができるのでしょうか。この点,従来の判例は,預金についても相続開始と同時に相続分に応じて当然に分割されるとの立場をとっていました。しかしながら,最高裁判所大法廷平成28年12月19日決定により判例変更され,現在では,普通預金,通常貯金については,相続開始と同時に相続分に応じて当然に分割されることはなくなり,遺産分割によるか,相続人全員の合意がない限り,払い戻すことができなくなりました。また,最高裁判所平成29年4月6日判決により,定期預金,定期積金についても,同様の判断をしました。

3.未分割遺産の使用
相続開始から遺産分割までの遺産の権利関係については前述のとおり「共有」となります。また,相続人が複数名いる場合の各相続人の持分については法定相続分となります。
 では,各相続人は遺産分割までの間遺産を使用することができるでしょうか。民法249条は「各共有者は,共有物の全部について,その持分に応じた使用をすることができる」と規定していますので,相続開始から遺産分割までの間,各相続人は遺産の全部について法定相続分に応じた使用をすることができることになります。

4.未分割遺産の管理
管理についても共有の規定に従い,保存行為は各相続人が単独で行うことができ,管理行為は持分の価格の過半数により決し,変更行為は相続人の全員の同意が必要となります。
(1)保存行為
保存行為とは,財産の現状を維持するための行為であり,例えば,雨漏りの修繕,腐敗するおそれのある物の処分,妨害排除請求権の行使などがあげられ,これらの行為は各相続人が単独で行うことができます。
相続財産たる動産を占有する第三者に対し相続人の1人が引渡請求をすることが保存行為に当たるとした裁判例や,相続土地の保存登記をすることが保存行為に当たるとした裁判例があります。
(2)管理行為
管理行為とは,財産の利用又は改良行為を言います。
管理行為の具体例としては,物全部の使用貸借契約の締結や,賃貸借契約の締結・解除等があります。
(3)変更行為
変更行為とは,性質若しくは形状又はその両者を変更する行為のことをいいます。
具体例としては,物全部の処分や土地の形状の変更などがあげられます。

5.相続人の相続財産管理義務
相続人は,相続放棄又は相続の承認をするまでの間,自己の財産を管理するのと同一の注意をもって相続財産を管理しなければなりません。
また,相続の放棄をした場合には,次順位の相続人が管理することができるようになるまでは,相続財産につき,引き続き管理義務を負います。
では,最終順位の相続人全員が相続放棄をしてしまった場合,管理義務はどうなるでしょうか。
不動産のように管理を要する相続財産が存在するにもかかわらず,最終順位の相続人全員が相続放棄をしてしまった場合には,相続財産を管理している者は,次順位の相続人に対して管理を引き継ぐことができません。このような場合は,相続財産管理人選任の申立てをして,相続財産管理人に管理を引き継ぐ以外,相続財産の管理義務を免れる方法はありません。
相続持参管理人の選任の申立てに際し,手続費用を相続財産から支払うことが困難な場合には,申立人が手続費用を予納しなければなりません。相続財産を管理する者は,最終順位の相続人全員が相続放棄してしまうと,相続財産の管理義務を免れるために,相続財産管理人選任申立の手続費用を負担しなければならないということになります。