遺産について

1 概要
  相続が開始すると,被相続人(死亡した人)に帰属していた一切の権利義務が相続人に包括的に承継されます。この一切の権利義務を相続財産又は遺産といいます。相続財産には,プラス財産だけでなく,借金等のマイナス財産も含まれます。
 相続の開始で相続財産は共同相続人間で共有している状態になります。遺産分割は,共同相続人間で相続財産の帰属先を決め共有状態を解消する手続きです。ですから,被相続人に帰属していた相続財産の範囲を確定しなければなりません。
 なお,雇用契約上の地位や身分関係上の地位など,被相続人の一身に専属していた権利義務は,相続の対象となりません。

2 遺産の範囲
(1) 現金 
相続財産に含まれます。
遺産分割前に,共同相続人の1人は,現金を保管している他の共同相続人に対して,その相続分相当額の現金を交付するよう求めることはできません(最判平成4年4月10日)。
(2) 金銭その他の可分債権
相続財産に含まれますが,原則として,遺産分割の対象とはなりません。
可分債権は,遺産分割手続きを経ずに,相続開始によって,各共同相続人の法定相続分に応じて,直接承継されると解されています(最判昭和29年4月8日)。
 したがいまして,遺産分割を経ることなく,各共同相続人が各自で分割された額を債務者に請求できることになります。
(3) 預貯金
相続財産に含まれます。
預貯金は,銀行等に対する預貯金払戻請求権であり可分債権なので,他の可分債権と同様,遺産分割の対象とならないと解されていました。
しかし,預貯金は,確実かつ簡易に換価できるので現金との差が少なく,また,解約しない限り常に残高が変動し得るもの等を理由として,『共同相続された普通預金債権、通常貯金債権及び定期貯金債権は、いずれも、相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることはなく、遺産分割の対象となるものと解する』と判例を変更しました(最判平成28年12月19日)。
(4) 国債
相続財産に含まれ,遺産分割の対象となります。
国債は,国に対する金銭債権ですが,個人向け国債は,法令上,一定額をもって権利の単位が定められ,1単位未満での権利行使が予定されていないものという国債の内容及び性質に照らし,相続開始と同時に当然に分割されることはないと判断しています(最判平成26年2月25日)。
(5) 不動産 
相続財産に含まれます。
名寄帳によって,被相続人がどのような不動産を保有していたのかを確認し,登記で権利関係を確認します。
(6) 動産
相続財産に含まれます。
車や装飾品,絵画,家具などが分割の対象として一般的です。遺産分割の対象とするには,個々の動産を特定(名称,種類,形状等や所在場所)する必要があります。
(7) 負債
相続財産に含まれます。
被相続人の資産よりも負債の方が上回っている場合,相続により思わぬ負担を強いられてしまう可能性が有ります。その場合,相続放棄や限定承認という制度を利用して対処する必要があります。
(8) 生命保険金
相続財産に含まれません。
生命保険金は,保険金受取人として指定された者が取得する固有の権利であり,被相続人に帰属する権利義務を承継取得するものではないので,相続財産に含まれません。
なお,最決平成16年10月29日は、生命保険金は原則として特別受益に当たらないが,被相続人が生前に保険料を支払っていることや死亡によって保険金請求権が発生することに鑑み,生命保険金の額、生命保険金が遺産の総額に占める割合、被相続人と生命保険金の受取人が同居していたか否かなど、個別の事情を考慮して共同相続人との間に著しい不公平が生じる場合には生命保険金を特別受益に該当するという判断をしています。
(9) 死亡退職金
相続財産に含まれません。
死亡退職金は,賃金の後払い的な性格もありますが,残された家族の生活保障という性格があります。相続の場面では,生活保障という面を重視して,受取人である遺族の固有の財産と考えるのが一般的で,相続財産には含まれません。 
(10) 祭祀に関する財産
一般に,相続財産には含まれないと考えられています。
祭祀に関する財産とは,「系譜」,「祭具」,「墳墓」のことを指します(民法897条)。
「系譜」とは家系図のことで,「祭具」とは位牌や仏壇などの礼拝等に使用する物で,「墳墓」とは墓石等の葬っている設備のことです。これらは,祭祀を主宰すべき者に承継されます。