1. 人的担保とは

人的担保とは、相手方の債務(「主たる債務」といいます)について、保証人などの第三者が責任を負う担保です。
この項では、債権回収において、人的担保からの回収の際に注意すべき点等をご紹介します。

2. 人的担保の特徴について

人的担保の特徴は、相手方以外の人間の財産を、主たる債務についての担保とすることができる点です。
相手方の経営状況が悪化していたとしても、必ずしも保証人がそれに左右されるという状況にないので、万が一相手方が破産した場合であっても、保証人に財産があれば、債権回収が図れる可能性があります。

また、保証契約はあくまで債権者と保証人になろうとする者との契約によって、成立するものです。ですから、他の債権者がいても、保証契約を締結していなければ、保証人が他の債権者から請求をされることもありません。
もっとも、保証人の経営状況が悪化して資力が不十分な場合には、十分な債権回収が図れない可能性もあり、担保価値自体が人的担保の信用に左右されるというリスクもあります。

3. 人的担保の例について

(1) 保証契約とは

(ア)保証契約は、人的担保のなかで最も基本的な形態です。
ただし、保証人には、主たる債務者に先に請求するように求める「催告の抗弁権」、主たる債務者に財産がある場合には、そちらから回収をするように求める「検索の抗弁権」があるため、実務においては下記の連帯保証がよくとられています。

(イ)保証債務は、債権者と保証人の間で締結される契約(保証契約)によって成立します。
ただし、保証債務は、あくまで主たる債務を担保する債務ということで、主たる債務の状況に左右される性質を有します。これを「保証債務の付従性」と呼びます。

主たる債務が、債務者により一部弁済等で減額されている場合には、保証人が責任を負う範囲も減額され、主たる債務の弁済期が延長された場合には、保証債務の弁済期も延長されることになります。

また、保証人は、主たる債務者の消滅時効を援用することができます。
主たる債権者に対して、履行を請求するなどして消滅時効の中断が生じる場合には、保証人に対しても時効中断の効果が及びます。
しかし、判例上、一度主たる債務の消滅時効が完成してしまうと、たとえ主たる債務者が消滅時効を放棄したとしても、保証人は消滅時効を援用できるとされています。

(ウ)主たる債務とすることのできる債務の範囲は広く、将来の債務(保証契約締結の時点では、まだ発生していない債務)を主たる債務とする保証契約も有効とされています。
もっとも、主たる債務の内容がどのようなものかについては、保証人にとって重要な内容であるため、保証契約の際に保証人に説明する必要があります。
これについて、商品代金立替払契約に基づく債務を主債務とした場合に、同契約が空クレジットであったことを保証人が知らなかったとして、錯誤を理由に保証契約が無効とされた判例があります。

(エ)保証契約は、「書面」によりなされなければ法的に効果がありません。そのため、電話で保証人になってもよいとの承諾を得たとしても、保証書を作成して取り交わす必要があります。
なお、2020年4月から施行された改正民法においては、事業に係る貸金等について個人が保証人となる場合には、この「書面」は保証契約の締結前1ヶ月以内に公正証書により作成する必要があります。(改正民法465条の6)

(2) 連帯保証契約

(ア)連帯保証契約は、上記の「催告の抗弁権」「検索の抗弁権」が認められない保証契約です。
債権者は、主たる債務者に対して請求をせずに、いきなり連帯保証人に対して、保証債務の履行を求めることができます。
そのため、連帯保証人は主たる債務者とほぼ同等の地位に置かれるということになります。

(イ)このような関係上、連帯保証人となるのは、全くの第三者というよりも、相手方法人の役員等、主たる債務者と密接な関係にある個人であることが多くみられます。
そうすると、主たる債務者と別主体とはいえ、実質的に主たる債務者の経営状況に、大きく依存している関係にある場合が多いのです。
債権回収の場面で、新たに会社の代表者などの個人保証を取り付ける際には、同個人の自宅不動産を調査するなど、保証人自身の信用調査を慎重に行う必要があります。

(ウ)連帯保証契約は保証契約の一種ですので、成立要件や一般的な注意点は保証契約と同様です。
連帯保証契約書において、「連帯保証する」という意思を明確に記載する必要があります。

(3) 根保証契約

(ア)債権者と主債務者との間の継続的な契約から発生する、複数の債権を包括的に保証するものを「根保証」と言います。
通常、保証契約は一つの特定の主債務を保証する契約です。しかし、継続的な部品供給契約など継続的取引の場合に、その都度、保証契約を締結するのは煩雑なため、保証期間中に発生する複数の債務をまとめて保証するという契約です。
一般的には、極度額(保証額の上限)を定めて締結されます。

(イ)上記のように、主たる債務の額が変動するため、特に個人の保証人にとって大きな負担となることがあります。
そのため、保証人が個人であり、主債務が貸金等債務である場合には、極度額を定め、期間を5年間に制限する等の保証人保護の規定が存在しています。

(ウ)また、民法改正に当たって、さらに個人根保証人の保護の拡大を図る変更がされています。

4. まとめ

人的担保は、第三者の財産を引き当てにできるという点で、主たる債務者に左右されない担保として、優秀な担保と言えます。
しかし、あくまで保証人に財産があるということが前提です。

債権回収に当たっては、(連帯)保証契約を締結してもらっていることだけで安心せず、保証の内容がどうなっているのか、保証人の現在の資産状況はどうなっているのか等を、慎重にチェックする必要があります。