松本永野法律事務所
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1. 交渉による債権回収時の注意点とは

債権回収の交渉時に考えられる、一般的な注意点について解説します。
債権回収は、契約通りに支払いをしてくれない相手方に対して、その支払いを迫るものです。ある程度強い言葉での請求や、粘り強く交渉することも必要となりますが、度を超えると、犯罪として逮捕されたり、事後的に弁済が無効とされたりする可能性があります。

どの程度までが許されるかは、実際の事案ごとに異なるので、明確にセーフとアウトの線引きはできませんが、以下では、債権回収の場面において、問題となりやすい事例を紹介します。

2. 具体的に問題となりうる場面について

(1) 犯罪行為

法律上、実力で自らの権利を達成するという「自力救済」は禁止されています。
そのため、たとえ債権者であっても、勝手に相手方の金庫からお金を取ったり、相手方から無理やり金品を奪取したりすることは犯罪になります。
以下では、債権回収時に問題とされやすい犯罪行為についてご紹介します。

(ア)窃盗罪

債権回収の際に、相手方へ納入した自社商品を引き揚げるという方法は、一般的に行われていますが、この場面で問題となりうるのは、窃盗罪(刑法235条)です。
たとえ自社の製品であっても、契約に基づいて相手に納品した以上、自由に持ち出すことはできません。
たとえ、所有権留保の特約があったとしても、無断で相手方の倉庫から引き揚げることはできず、相手方の合意の上で引き揚げるか、法的な手続きを取る必要があります。

窃盗罪の成立要件である「窃取」とは、判例上、「他人の意思に反して、その占有を侵奪するもの」と考えられているので、民法上の所有権留保があっても、窃盗罪が成立する可能性があるのです。
そのため、自社商品の引き揚げは、相手方の一定の協力が必要となります。

(イ)恐喝罪

債権回収はこちらとしても死活問題であり、約束通りに支払いをしない相手が悪いという考えも相まって、強い口調で支払いを求めることは、通常仕方がないことでしょう。
しかし、それも度を超えた発言をしてしまうと、恐喝罪(刑法249条)に問われる可能性があります。たとえ債権者からの権利行使であっても、判例上、「その方法が社会通念上、一般に認容すべきものと認められる程度」を逸脱した場合には、恐喝罪にあたるとされています。

具体的には、相手方やその家族の生命や身体に、危害を加える旨の発言を伴う場合は、たとえ債権者からの要求であっても、恐喝行為と判断されることになりかねません。その他、深夜遅くまで自宅に押し掛けて、大声で騒ぐ等の威圧行為も同様です。
また、相手方から何らかの支払いを受けていなくても、上記のような行動が脅迫罪とされる可能性もあります。

(2) 事後的に効果を否定される可能性のある弁済について

また、刑法上の犯罪に問われない場合であっても、事後的に、弁済の効果が否定されるケースも考えられます。せっかく労力を使って、弁済を受けられたにもかかわらず、それがなかったことにされて、全額返還を求められることもあるので注意が必要です。

(ア)詐害行為取消権を行使される場合

事後的に効力が否定される場合の一つは、民法424条の詐害行為取消権を主張された場合です。
この規定は、債務者が無資力となるにもかかわらず、ある者に対して利益を与える不公平な法律行為を否定して、債権者を保護するための規定です。

判例上、債権者への弁済は、原則として詐害行為に当たらないものの、特定の債権者と通謀し、他の債権者を害する意思(他の債権者への弁済の資力がなくなることをわかっていながら弁済すること)をもって弁済したような場合には、詐害行為に当たるとされています。

なお、2020年4月から施行された改正民法においては、債務の消滅に関する行為についても、①債務者が支払不能(債務者が支払い能力を欠くために、その債務のうち弁済期にあるものにつき、一般的かつ継続的に弁済することができない状態)の時に行われ、かつ、②債務者と受益者が通謀して、他の債権者を害する目的をもって行われたもの、であるときには、取り消しの対象とされることになります。(改正民法424条の3)

(イ)否認権を行使される場合

また、相手方が破産した場合には、破産者が支払不能になった後、または破産手続開始の申立てがあった後にした弁済で、その当時、こちらが相手方の支払不能等を知っていた場合には、破産手続開始後に破産管財人より否認される可能性があります。(破産法162条)

3. まとめ

債権回収の場面は、その場での臨機応変な対応が求められるものではありますが、債権者であれば何でも許されるというわけではありません。

具体的にどこまでが許されるのかは、事案によって様々ですので、一度専門家に相談された上で、方法を考えるということも大切です。