1.遺言の撤回について・変更について
遺言者は、遺言の方式に従って、いつでも事由に遺言を撤回することができます(民法1022条)。遺言を撤回する権利は放棄することはできません(同法1026条)。
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遺言 ー 概要
遺言者は、遺言の方式に従って、いつでも事由に遺言を撤回することができます(民法1022条)。遺言を撤回する権利は放棄することはできません(同法1026条)。
遺言の撤回は、撤回遺言のほか
(1)前の遺言と抵触する遺言をしたとき
(2)遺言後に遺言と抵触する生前処分その他の法律行為をしたとき
(3)遺言者が故意に遺言書を破棄したとき
(4)遺言者が故意に遺贈の目的物を破棄したとき
に遺言を撤回したものとみなされます(同法1023条、1024条)。
前に作成された遺言と後に作成された遺言の内容が抵触する場合、その抵触する部分について、後の遺言で前の遺言を撤回したものとみなされます。
「抵触」とは、前の遺言を失効させなければ後の遺言の内容を実現することができない程度に内容が矛盾していることをいいます。
遺言作成後に遺言の内容と抵触する生前処分その他の法律行為をした場合、その抵触する部分について、前の遺言を撤回したものとみなされます。
この場合の「抵触」とは、「後の生前処分を実現しようとするときには前の遺言の執行が客観的に不能となるような場合のみにとどまらず、諸般の事情より観察して後の生前処分が前の遺言と両立せしめない趣旨のもとにされたことが明らかである場合をも包含する」と解されています(最判昭56.11.13)。
遺言者が故意に遺言書を破棄したときは、その破棄した部分について、遺言を撤回したものとみなされます。遺言者が故意に破棄することが要件であり、第三者による場合も、遺言者の意思に基づいて破棄された場合には遺言者の故意によるものとみることができます。
「破棄」とは、切断など遺言書自体を有形的に破棄する場合のほか、遺言書をその内容を識別できない程度の抹消する場合も含まれます。
撤回されるのは、破棄した部分ですが、残存部分だけでは遺言の内容が不能、不明となるような場合は、遺言全体が無効となります。
なお、公正証書遺言の場合、原本は公証役場に保管されていますので、手元に置かれた正本を破棄しても撤回擬制の効力は生じません。
撤回遺言者が故意に遺贈の目的物を破棄した場合も、破棄した部分については、遺言を撤回したものとみなされます。「破棄」には、目的物を物理的に滅失・毀損した場合のみならず、経済的価値を失わせる場合も含まれます。
撤回遺言ないし撤回擬制によって撤回された前の遺言は、撤回行為が撤回されたり、取り消されたりして効力が生じなくなったとしても、原則として、遺言としての効力が回復することはありません。ただし、撤回行為が詐欺または強迫によった者として取り消された場合には、遺言の効力が復活します(同法1025条)。
また、、遺言書の記載に照らし、遺言者の意思が原遺言の復活を希望するものであることが明らかなときは、民法1025条ただし書の法意にかんがみ、遺言者の真意を尊重して原遺言の効力の復活を認めるのが相当と解される」として「原遺言」を「撤回する遺言」を「さらに撤回する遺言」によって原遺言の効力の復活を認めた判例があります(最判平9.11.13)。
作成した自筆証書遺言を変更したい場合は、新たに遺言を書きなおすか、作成した遺言自体を変更する方法があります。変更する部分がとても軽微でかつ、自筆証書遺言の場合は直接その遺言の文章を変更できます(民法968条2項)。変更の方法は、その遺言の変更したい部分を示し、変更した旨、変更内容を書き、署名し、かつその変更の場所に印を押す必要があります。なお、変更方法に不備があると変更は無効となります。変更が無効の場合、変更は無かったものとなり、変更前の内容となります。
以下の文例のような遺言書を作成することで変更することができます。
自筆証書中の加除その他の変更は、その場所を指示し、これを変更した旨を付記して特にこれに署名し、かつ、その変更の場所に印を押さなければ、その効力を生じない(同法968条2項)。
遺言の変更も様式に従って行う必要があり、変更がその効力を生じるためには、①変更場所を指示し、②変更した旨を付記して署名、③変更場所に㊞を押す必要があります。
①~③の条件を満たすための具体的方法は規定されていませんので、例えば、以下の文例のように変更をしておく必要があります。
遺言の変更は、遺言書を一から作り直す必要はありませんが、変更の条件を満たさなければ、変更はなかったものとされます。このように変更に要式性が定められているため、変更の有効性が争われる可能性も有りますので、多少の手間がかかっても、遺言書を書き直す方法をとることをお勧めします。