Case 020 相手方が遺産分割調停において遺産の範囲(名義預金・死後の収益賃料)を争ったため、調停とは別に遺産確認の訴え等を提起し、別途解決金を獲得した事例
- 調停・審判・訴訟あり
- 遺産分割
担当弁護士永野 賢二
事務所久留米事務所
ご相談内容
依頼主
Sさん(40代・男性)
福岡県在住のSさんの叔母(被相続人)は平成26年に亡くなられ、Sさん(代襲相続)を含めた叔父・叔母等の合計11名が相続人となりました。なお、被相続人は独身で配偶者・子はいませんでした。
この点、被相続人の預貯金は、当事務所にご相談に来られる前に相続人間で分割が終了していました。
そのため、被相続人の遺産で残っているものは、複数の賃貸用物件・被相続人の姪名義での名義預金(相続税の申告書に記載あり)・その他の金融資産(建物更生共済契約、出資金)でした。
当初、相続人間での遺産分割協議はスムーズに行われていたのですが、Sさんの叔父であるAさんらとSさんらとの間で相続人間の紛争が激化して話し合いが困難になったため、遺産分割協議の交渉を代理人として行ってほしいとのことで、当事務所に相談に来られました。
弁護士の活動
当事務所は、Sさんを始めとするSさん側の相続人が7名いらっしゃったため、7名全員に依頼者間で紛争が生じた場合は辞任せざるを得ないこと等を説明して納得してもらった上、遺産分割に関する依頼を受け、Aさんをはじめとする相手方らに文書を送付して遺産分割協議を開始しましたが、協議がまとまらず遺産分割調停を行うことになりました。
上記調停の際、相手方らは、被相続人の姪名義での名義預金は被相続人の遺産ではない旨主張するに至りました。
この点、被相続人の相続税の申告の際、Aさんをはじめとする相手方らは、上記名義預金を相続税の申告書に記載することについて特に争っていなかったにもかかわらず、相手方らが上記調停において突然遺産性を争ってきたという経緯がありました。
また、相手方らは、被相続人の賃貸用物件を事実上管理しており、毎月テナント等から受領する賃料等についても、Sさんらに支払っていない状況でした。
そのため、当事務所は、やむを得ず名義預金を遺産分割調停の対象から除外し、名義預金の名義人である被相続人の姪らに対して損害賠償請求訴訟、遺産確認の訴えを提起することになりました。また、被相続人が亡くなった後の賃料についても、Aさんらに対して賃料相当額の不当利得返還請求訴訟を提起することになりました。
なお、名義預金については、相手方も激しくこれを争っていたため、名義預金の通帳・銀行届出印の保管・管理状況、過去の相続税の申告状況、遺産分割調停までの相手方らの従前の言動、名義預金の原資、名義人の資力等から本件預金が名義預金であることを詳細に主張し、証人尋問も併せて実施しました。
また、賃料相当額の不当利得についても、相手方らが過大な経費(管理費用等)を控除すべきである旨主張したため、これに対する適切な反論を行いました。
解決結果
その後、遺産分割調停については、収益物件等の評価も争いになったことから、収益物件の鑑定を行った上、Sさんらが鑑定結果を踏まえた代償金(総額約1500万円)をSさんから受領する旨の調停を成立させました。
また、名義預金については、姪らとの間で、請求額(預金残高)の7割相当額を基準として、これを法定相続分に従って支払う(総額約370万円)旨の和解を成立させました。
さらに、未払賃料についても、相手方らに対して、賃料総額から必要最低限の実費等を控除した金額を基準として、これを法定相続分に従って支払う(総額約420万円)旨の和解を成立させました。
弁護士のコメント
今回のケースのように、遺産分割調停において相手方が被相続人の遺産性を争った場合(被相続人の財産ではない旨の主張をされた場合)、申立人としては、これを遺産分割調停の中で反論して裁判所の判断を仰ぐことはできず、別途遺産確認の訴えを提起する必要があります(既に預金が解約されているような場合は、損害賠償請求訴訟も提起する必要がある場合があります)。
また、相続財産に収益物件があり、被相続人が亡くなった後に特定の相続人のみが賃料を収受し続けているような場合にも、相手方が遺産分割調停でこれを一回的に解決することを拒めば、別途不当利得返還請求等の訴訟を提起する必要があります。
今回のケースのように、相続人間の紛争が激化すれば、調停内での一回的な解決が困難となり、迂遠ではありますが、上記訴訟提起が必要となり、手続きが極めて複雑になりますので、このような場合には弁護士に相談されることをお勧めします。
松本・永野法律事務所では遺産相続に関する相談は初回無料で行っていますので、遺産相続でお困りの方は当事務所にご相談ください。