1.依存症を原因とする犯罪とは

実刑判決を受けた犯罪者が収容される刑事施設(刑務所)の目的は、収容者に社会生活に適応できる能力を身につけさせ、適正な社会復帰に導くことにあります。
したがって、犯罪を繰り返す人間には、より重い刑罰を科し、社会復帰に向けた適合能力の涵養を図ることになります。
「より重い刑罰」とは、執行猶予付の判決よりは実刑判決、実刑判決であればより長い刑期の判決ということになります。
 
しかし、犯罪を繰り返す犯罪者の中には、ある特定の行為に対する強い衝動に駆られるのを抑えられずに、犯罪行為に及んでいるケース(いわゆる依存症)が少なくありません。
 
薬物依存症の患者が薬物を繰り返してしまうというのは、イメージしやすいと思います。その他、一般的に馴染みの薄い言葉かもしれませんが、窃盗を繰り返してしまうクレプトマニア(窃盗癖)というものがあります。
また、アルコール依存症患者が、飲酒時に暴行や窃盗などの犯罪をしてしまうということもあります。
 
現在では、これらの依存症は一種の病気であると考えられており、本人の反省を促すなどの方法により、犯行を思いとどまることは期待できません。
そうすると、刑事施設での服役によって、社会復帰後の再犯を防止することは困難で、やはり病気には、それぞれの症状に応じた適切な治療行為が必要ということになります。
犯罪を繰り返す犯罪者のご家族に、このような理解がないことで、その人に対する適切な対応ができていないケースは少なくありません。
そこで、本項では、依存症の種類や、それを克服していくための方法について紹介していきます。

2.専門機関での治療・回復について

依存症患者の再犯を防止し、社会生活に適合させていくための大きな手段の一つとして、医師や臨床心理士、カウンセラー等の専門家の助けを借りることが考えられます。
 
現在は、薬物依存症以外にも、アルコール依存症やクレプトマニア等は、一種の病気であるとの認識が社会的にも広がり、医療機関においても、それらの治療を専門的に行うところが増えてきています。
もし、身近な人が犯罪をしてしまい、その原因がこれらの依存症にあるか、あるいはそれが疑われるような場合には、上記のような専門機関に相談してみるとよいでしょう。

3.自助グループでの回復について

自助グループとは、なんらかの生活課題や問題を抱えた人や、その家族などが集まり、相互に支え合い、その課題や問題を乗り越えるための集団です。
各種の依存症には、それぞれの依存症からの回復を図るための自助グループが存在することがありますので、このような団体を頼ることも検討すべきです。

(1)薬物依存

薬物依存からの回復に取り組む自助グループとして、DARC(ダルク)やフリーダムがあります。
ダルクは、宿泊施設を備えた自助グループで、入寮して共同生活を営みながら、薬物依存からの回復を目指したり、通所で回復を目指したりするプログラムが用意されています。
ダルクに入所するには料金が必要ですが、生活保護を受けながら、ダルクに入所している薬物依存患者もいます。
フリーダムは、薬物依存患者本人・その家族等に対する電話相談や、家族のためのグループワークなどを実施する団体です。


 

(2)アルコール依存

アルコール依存からの回復に取り組む自助グループとして、たとえばMAC(メリノール・アルコール・センター)やAA(アルコティック・アノニマス)があります。
入所施設を備えているところも多く、依存患者同士が定期的に集まってミーティングを行うなど、各患者の進度に沿ったプログラムが施されています。
また、上記団体のほかにも、全国各地に断酒会と呼ばれる団体もあり、例会に出席し、1日断酒を行うなどの活動をしています。


 

(2)クレプトマニア

クレプトマニアからの回復に取り組む自助グループとして、KA(クレプトマニアクス・アノニマス)が全国各地にあり、ミーティング等の活動を行っています。


 

(4)その他

上記の依存患者向けの自助グループのほか、ギャンブル依存患者向けの自助グループとしてGA(ギャンブラーズ・アノニマス)があり、それ以外にもDV加害者を対象とした自助グループもあります。

4.まとめ

以上で述べてきたように、犯罪を繰り返してしまう原因が、依存症等の病気にあることはそれほど珍しくありません。
そのような場合には、刑務所に服役することでの解決は期待できず、専門家による治療や自助グループでの活動がより適切といえます。
 
しかし、依存症患者である本人は、自分が一種の病気であるということについて無自覚であることが少なくありません。
したがって、周りの人間が、犯罪を繰り返してしまう原因に気付き、それに応じた対応をとっていくことが必要です。
 
刑事事件になれば、刑事弁護人が適切な対応をとってくれるかもしれませんが、刑事事件にはならない場合であっても、身近にいる家族や知人などが気付き、まず医師や自助グループなどに相談してみることが重要です。