3 親権の獲得について
(1) 考慮要素について
親権者の指定は、父母のいずれを親権者とするかが子の利益に適うか(子供の幸せに繋がるか)という観点から、諸事情を考慮して総合的に判断します。その考慮要素は、父母側の事情として、監護能力、経済的能力、居住環境、教育環境、子に対する愛情の度合い、従来の監護状況、監護補助者等による援助・協力、面会交流への姿勢など、子の側の事情として、年齢、性別、心身の発育状況、環境の変化、子どもの意思などが問題となります。
(2) 判断ポイントについて
ア 子供と過ごした時間・過ごす時間
子供に対する愛情の度合いは、客観的事情から判断されますが、これまで子供と過ごしてきた時間が長いほど愛情が深いと判断される傾向があります。また、子供と過ごした時間が長いほど従来から監護していたといえますから、今後においても適切な監護を期待できるので有利な事情となるでしょう。
また、離婚した後に子供の養育を十分にするためには、子供を優先したライフスタイルに変える必要がある場合もあります。子どものライフサイクルに合う環境を整えることができるかが判断のポイントとなります。
イ 経済的な安定
安定した生活ができ、心身ともに健康なことが子供を養育するうえで必要であり、親権者となる者には経済的な基盤があることが要求されます。子供を養育して行くために必要な収入を安定的に得ることができる経済力は、居住環境や教育環境に影響する重要な要素です。もっとも、相手からの養育費の支払いで解決でき、公的な補助もあるので、経済的にいずれが優れているかはそれほど重視されないといえます。むしろ、子供の養育に悪影響がある浪費癖やギャンブルに依存しているなどの事情が不利な事情になるといえます。
ウ 子供の意思
子供が15歳以上の場合は、子供の意見を聴かなければならないと規定されており、その意思は尊重されます。15歳未満の場合でも自分の意思を表明できる年齢であれば、家庭裁判所調査官の調査でどのような意思を持っているかを聞き取ったり、探ったりして確認することになります。
エ 現状維持の原則
居住している場所の変化や転校など、子供にとって環境が変化することは負担となると考えられています。そのため、現在子供を監護している状況に特段の問題がなければ、そのままの状態を継続するという判断がされることが多いです。
オ 兄弟姉妹不分離の原則
兄弟姉妹は、生活を共にすることによって互いに得る体験は人格形成の上で何ものにもかえがたい価値があり、分離することは好ましくないと考えられています。そのため、兄弟姉妹を分けずに一方を親権者と指定するのが原則です。
カ 母親優先の原則
一般的に、10歳未満の子供の場合、母親の下で監護されることが子供にとって幸せだという考え方がされています。
キ 面会交流への積極性
面会交流は、離れて暮らす親の愛情を受け親子関係を形成していく重要な機会です。そこで、面会交流に積極的であることは、子供が両親の愛情を十分に受けて健全に成長することを可能とする親権者の姿勢として適切であるといえます。
(3) 家庭裁判所調査官の調査について
調停離婚で親権者の指定について夫婦間で争いがある場合、家庭裁判所調査官が父母のどちらが親権者としてふさわしいかを調査します。家庭裁判所調査官は、教育学や心理学などの専門家であり、その調査結果の報告は、後の裁判離婚で家庭裁判所の裁判官がどちらが親権者にふさわしいかを判断する際に重要な影響を与えます。
ですから、調停離婚で家庭裁判所調査官が出す調査報告の結果によって、裁判離婚における親権者指定の判断についても見通しがある程度たつことになります。
調査は、子供の現状を把握するためのものであり、過去の事情は現状を把握するための事情に過ぎません。
裁判所での調査官との面接、家庭訪問、幼稚園・学校訪問を行います。調査官と子供だけで話す機会を設け、子供の気持ちを探ったりしながら、現在の監護状況が子利益に沿うものであるか否かの評価をして報告書を作成します。