1. 医師や医療機関の過失は、注意義務違反

医療訴訟で、医師や医療機関の責任が認められるのは、医師に過失があった場合で、過失は注意義務違反とも呼ばれます。
どのような注意義務があるのかは、基本的に患者側が設定し、医師や医療機関がどういった点で注意義務に違反したのか、具体的に主張立証しなければなりません。

患者側の弁護士にとっては、注意義務の設定と義務違反の主張立証が最初の関門です。そして、医療機関側の弁護士は、患者側が設定した注意義務を基準にして、反論を組み立てていきます。

そのため、現実的に履行しえないような注意義務が設定されている場合には、医療機関側の弁護士としては、そのような注意義務は法律上の義務とはいえない、と主張していきます。
注意義務の設定がずれたままだと、その後の争点が問題とされるまでもなく、患者側の敗訴で訴訟が終わります。

2. 結果を実現するのではなく、努力をする手段責務

ではなぜ、医療訴訟では注意義務の設定が難しいのでしょうか。
医師や医療機関と患者の間には、診療契約が成立しています。法律上、医師の債務は、一定の結果を実現する義務があるというのではなく、一定の結果を実現すべく最大限の努力をする債務があると考えられています。
これを「手段債務」といいます。
ですから、患者の命が救えなかった、患者の病気が治らなかったからといって、医師に義務の不履行があったということにはなりません。

現在の裁判実務では、医師のミスが法律上の過失と言えるかどうかは、「診療当時のいわゆる臨床医学の実践における医療水準に照らして、適切な検査・診断・処置が行われているかどうか」が判断されています。
つまり、医師や医療機関がどのような注意義務を負っているのかは、契約書等から単純に導かれるものではありません。臨床医学に関する知見をもとにして、患者の病気や怪我の進行具合等に応じて、個々のケースごとに判断せざるをえないのです。

ちなみに医療訴訟には、2種類の法的構成があります。
患者と医療機関の間の契約関係を根拠とした、債務不履行責任の追及とは別に、交通事故などの場合と同様に、契約関係を前提としない、不法行為責任の追及があります。
実際の医療訴訟では、債務不履行責任の追及とあわせて、不法行為責任の追及が行われるケースが多いのです。医師や医療機関のミスが、法律上の過失と認められるかどうかや、ミスと患者に生じた結果との因果関係等についても、判断要素に大きな違いはありません。

3. 訴訟の行方を左右する、注意義務の設定

注意義務の設定は、訴訟の行方を方向付ける点で非常に重要です。
それだけでなく、担当医にとっては、ミスが法律上のミスといえるかどうか、担当医が責任を問われることをしたのかどうかにつながります。

以上の2点を踏まえ、当事務所の弁護士は、医療関係訴訟において、注意義務の設定が適切になされているかどうかについて、最も注目しています。