Divorce

Case 022 抗告審において、不貞行為を行った妻自身の婚姻費用分担金の支払請求を権利濫用にあたるとして排斥し、月額5万円を減額した事例

  1. 婚姻費用
  2. 調停・訴訟あり

担当弁護士永野 賢二
事務所久留米事務所

ご相談内容

男性

依頼主
Vさん(40代・男性) / 
職業:会社員

福岡県在住のVさんは、子どもを連れて別居した妻であるAさんの代理人弁護士から書面が届いたということで、当事務所に相談に来られました。
上記書面によれば、①Vさんとの離婚を希望する、②親権者をAさんとして養育費の支払を求める、③財産分与を求める、④Aさんの不貞行為を自認して一定の慰謝料を支払う、というものでした。
Vさんから事情を伺ったところ、不貞行為を行ったのはAさんであり、親権者をVさんにしない限り離婚はできないとのことでした。
そのため、当事務所は、離婚事件について依頼を受け、その後、Aさんから離婚調停が申し立てられましたが、親権者についての折り合いがつかず、離婚調停は不調に終わっています。
一方、Aさんは、Vさんに対して、婚姻費用の請求についても調停を申し立てましたので、これに対しても対応することになりました。

弁護士の活動

弁護士

Vさんとしては、Aさんからの婚姻費用の請求に対し、別居に至った主な原因はAさんの不倫(不貞行為)にあるため、Aさん自身の生活費に相当する婚姻費用の請求は認められない旨主張しました。
これに対し、Aさんからは、別居に至った理由は、むしろVさんの不可解な行動や夫婦関係・家族関係の不和にあるなどとして、Aさん自身の生活費に相当する婚姻費用の請求は認められるべきであるとの反論がなされました。
その結果、家庭裁判所は、「AさんとVさんとの別居について、Aさんの不貞行為及びその発覚が別居の大きな要因の一つになっていることはうかがわれるものの、専らAさんの不貞行為により、VさんとAさんが別居に至ったとはいえない」、「Aさん自身の婚姻費用分担金の支払いをVさんに求めることが直ちに信義に反し許されないとまでいうことはできない」とし、Aさん自身の生活費に相当する婚姻費用の請求を認め、婚姻費用の月額を約13万円とする旨の審判をしました。
そのため、当事務所は、上記審判に対して即時抗告を申立て、Aさんと不貞相手との不貞行為、夫婦関係の不和の状況を時系列で整理し、Aさんと不貞相手との不倫関係があったからこそ夫婦関係に不和が生じていること等を主張し、Aさん自身の生活費に相当する婚姻費用の請求を認めた審判が不当である旨主張しました。

解決結果

男性

その結果、高等裁判所は、「不倫関係が発覚するまでは概ね夫婦関係が修復困難な程度に至ることなく継続していた」、「不貞行為が発覚した後に夫婦関係が決定的に悪化し、別居に至った」ことを認定しました。
また、同裁判所は、「Aさんが不倫相手と不貞関係となったことは、Vさんとの夫婦としての信頼関係を根本的に破壊する背信的行為にほかならず、」「自らの生活費に係る部分を加えて、婚姻費用分担金の支払を請求することは、権利濫用に当たり許されない」旨判示し、Aさん自身の生活費に相当する婚姻費用を控除し、婚姻費用の月額を約8万円とする旨の決定をしました。
上記決定によって、Vさんが毎月支払うべき婚姻費用を月額5万円減額することができました。

弁護士のコメント

弁護士

別居していても、婚姻が継続する限り、婚姻費用分担義務は存続すると考えられていますが、別居責任を考慮して婚姻費用分担義務の内容・程度を決定すべきといった考え方が裁判例にあります。
別居責任が請求者側にある場合、例えば、他の男性との不倫関係が原因で別居した妻が夫に婚姻費用分担請求を行う場合は、請求は認められない(妻の分担額はゼロ)とする裁判例があります(東京高決昭和58年12月16日、東京家審平成20年7月31日)。
本件のケースも上記と同様の事案にあたると思われますが、問題は別居責任が請求者側にあることを立証できるかどうかです。
結果的に別居に至っている夫婦である以上、元々の夫婦関係は上手くいっていないことが多いのですから、請求者の不貞行為が主な原因で別居に至ったということを立証することは、今回のケースのように思ったより容易ではないことが多いと思われます。
そのため、このような場合には専門的な知識が必要となることがありますので、弁護士にご相談されることをお勧めします。
なお、松本・永野法律事務所では、離婚・男女問題に関するご相談を初回無料で行っておりますので、お気軽にお問い合わせください。