1. 医療行為を行う前の患者の状態や既往歴にも注目

医療関係訴訟では、患者の身体に障害が生じるケースが多いため、障害の程度に応じて損害額も高額になります。
そのため、医療関係訴訟においては、損害額も重大な争点にあります。

医療行為のあとで、患者に重篤な後遺障害が発生した、あるいは患者が死亡したことを理由として、莫大な損害賠償請求がされる場合があります。
しかし、実は患者側にもともと重篤な病気があったり、医療行為を行ってもそもそも救命の可能性がなかった、というケースもあります。

そういった場合には、損害額は大幅に減額されるか、損害そのものが否定されることになります。
場合によっては、医療行為による影響と、患者のもともとの素因を勘案して、損害を割合的に認める(割合的認定)ということも必要になります。

そのため、医療機関側の弁護士としては、問題とされている医療行為の是非だけに注目するのではなく、医療行為前の患者の状態や、患者の既往歴にも注目する必要があります。
患者の既往歴については、当該病院のカルテだけではなく、保険診療の履歴を調査することもあります。
また、患者が重篤な病気や障害を有している場合には、海外の論文なども参考にして、術後の生存率などを調査し、主張立証に活用することもあります。

2. 可能性を侵害された場合は、部分的な損害が認定

近年の医療訴訟では、医療行為と結果発生の間に因果関係が認められない場合でも、可能性が侵害されたことで、部分的に損害が認められることもあります。

もし適正な診療行為が行われていれば、

●患者がその死亡の時点において、なお生存していた相当程度の可能性の存在。

●患者に重大な後遺障害が残らなかった相当程度の可能性の損害が証明されるとき。

上記が認められるときは、生存の可能性、後遺障害が残らなかった可能性を侵害されたとして、部分的に損害が認められることもあります。

医療機関としては、因果関係が否定されたとしても、可能性が侵害されたことを理由に、部分的な損害が認定されることを念頭に置き、損害の不発生については慎重に対応する必要があります。

3. まとめ

医療訴訟では、注意義務違反と因果関係が注目されがちですが、損害論も重要です。
我々は、注意義務違反と因果関係が認定されそうな和解事案、示談事案においても、損害額については慎重に精査しています。