1 概要

私たちは、日々消費者として取引していますが、中には知識や経験不足に付け込まれ、不当な勧誘、詐欺的な取引によって、思わぬ被害を受けてしまうことがあります。
消費者を保護するための法として、消費者契約法、特定商取引法、割賦販売法、訪問販売法、貸金業規制法、利息制限法などがあります。
消費者契約法と特定商取引法は、消費者保護法制の中心的な法律

2 消費者契約法

(1)  概要

消費者と事業者の間には、商品・サービスの内容や契約内容に関する知識や情報、交渉力等について大きな格差があります。すなわち、事業者が用意した契約条件で契約を締結するか否かを選択できるのみであることが多く契約条件に関する知識や情報に格差があったり、事業者に示された契約約款の内容を検討したり拒否することが事実上できないなど交渉力に格差があったりします。このような格差の存在が、消費者が被害を受ける原因となっています。消費者契約法は、格差が存在することを正面から認め、それを前提に契約過程や契約内容の適性を図ることを目的として制定されています。

(2)  契約締結過程

契約締結過程における以下の2つの類型による不適切な勧誘行為に対して、消費者に取消権を認めています。
意思表示が取り消されると、遡及的に意思表示がされる前の状態に戻す必要があります(原状回復義務)。履行済みの場合は、消費者は受領したものは現物で返還し、事業者は受領した金銭を全額返還します。仮に、既にサービスを受けていたり、目的物を消費している場合、基本的には消費者が利益を受けた客観的価値を金銭に評価して返還することになりますが、消費者が受けた給付は押し付けられたものであり消費者の利得は実質的にないものと解されるので、返還させるべきではないといえる場合もあります。

(ア) 消費者が誤認した場合

A) 不実告知 重要事項

「重要事項」について、「事実と異なることを告げること」により、消費者が誤認した場合、消費者は意思表示を取り消すことができます。
「重要事項」とは、消費者が契約を締結するか否かについての判断に通常影響を及ぼすべきものです。例えば、貸金業者との連帯保証契約における主債務者の支払能力や融資の目的などが重要事項になります。

B) 断定的判断

事業者が、契約の対象となるものに関して、将来における不確実な事項につき断定的な判断を提供した場合、消費者は意思表示を取り消すことができます。例えば、証券や先物取引で事業者が将来必ず値上がりするなどと不適切な情報提供した場合は、消費者の誤認を招くものであり、取消事由となります。

C) 不利益事実の不告知

事業者が、消費者に対して、重要事項について一方で有利なことを告げ、他方で重要事項について不利益な事実を故意に告げずに消費者が誤認した場合、消費者は意思表示を取り消すことができます。例えば、マンションからの眺望の良さをうたいながら、眺望を遮る建物の建設計画を告げないような場合は、これにあたります。

(イ) 消費者が困惑した場合

A) 不退去

消費者が、事業者に対して、住居などから退去すべき旨の「告知」をしたにもかかわらず退去しなかったことにより困惑して意思表示した場合、消費者は、当該意思表示を取り消すことができます。「告知」には、「帰ってくれ」と言った場合はもちろん、黙示的にでも社会通念上退去して欲しい意思が示されている場合、例えば「時間がありません」なども含まれると解されています。

B) 退去妨害

消費者が、事業者から勧誘を受けている場所からの退去する旨の意思を示したにもかかわらず、その場所から退去させない場合、消費者は当該意思表示を取り消すことができます。「退去させない」とは、物理的なものと心理的なものを問わないので、例えば、消費者が立ち去ろうとしているにもかかわらず、更に執拗に勧誘する行為も退去することを困難にさせる行為であるから、「退去させない」場合に該当し取り消すことができます。

(3)  取消権の行使期間

取消権の行使期間は、「追認をすることができるときから6カ月間」となります。
「追認することができるとき」とは、誤認の場合は、①不実告知、②断定的判断、③不利益事実の不告知のいずれかにあたることを知ったときであり、困惑の場合は、①不退去、②退去妨害から脱したときとなります。

(4)  不当条項規制

現在の消費者契約では、契約条項は、事業者があらかじめ作成した約款が使用されることがほとんどです。約款は、事業者が一方的に作成するので、消費者に一方的に不利な内容で不当な不利益を被ることがあり得ます。
そこで、約款等の契約条項のうち、消費者に一方的に不利益に条項は、無効となると規定しています。

3 特定商取引法

(1)  概要 典型例

特定商取引法は、消費者契約のうち消費者被害が発生しやすい「特殊販売」形態について、規制する法律です。特殊販売とは、訪問販売、通信販売、電話勧誘販売、連鎖販売取引、特定継続的役務提供、業務提供誘引販売、訪問購入やネガティブオプションのことを指します。特殊販売では、不意打ち的な販売方法であったり、誘惑的な勧誘であるなど、事前に調べる余裕や予備知識もなく事業者の主導的な取引となり、熟慮し冷静に判断する機会を与えられないまま契約締結を迫るなどの構造的な問題点があることから規制されています。

(2)  クーリングオフ制度

クーリングオフとは、申し込みや契約締結後にも一定の熟慮期間を保障する制度であり、期間内であれば消費者は何らの理由も必要なく、無条件に契約を解除することができます。
クーリングオフの行使期間は、法定の契約書面交付日から8日間(連鎖販売、業務提供誘引販売では20日間)である。
契約書面の交付がない場合や書面の記載に不備や虚偽記載がある場合は、法定の書面を交付したことにならないので、上記期間は進行しません。
クーリングオフをすれば、契約は遡ってなかったものとして扱われます。

(3)  過量販売

訪問販売において、「分量」という客観的指標を根拠に取り消しを認める制度です。高齢者を狙って次々販売の被害が多発したことから、導入されました。
消費者にとって「その日常において通常必要とされる分量を著しく超える商品・権利・役務」に関する契約が対象となります。商品等の額は問題となりません。過量となるのは、一回の契約でなる場合、次々販売でなる場合、既に従前の契約で過量となっている場合があります。また、同一業者でなくとも、過量であることを業者が知っていながら契約させた場合も対象となります。公益社団法人日本訪問販売協会が商品・役務の分類に応じた過量となるかの文量の目安を出しているので、参考にしてみてください。

過量販売契約は、その契約についての申込みの撤回若しくは解除ができ、行使期間は契約締結から1年間です。