「瑕疵担保責任」から「契約不適合責任」へ(製造・卸売・販売業)
瑕疵担保責任の例
たとえば、化粧品の生産設備を製造するA社が取引先であるB社から注文を受け、生産設備機械を製造、納品したところ、機械で生産した化粧品に不具合が発生したため、B社から契約の解除と損害賠償請求を求められましたとします。
A社としては、機械の性能に問題はなく、B社における機械の使用方法に問題があったと考えています。
大規模な生産設備の場合、不具合の原因の特定や改善方法の判断が難しいため、問題の解決に長期間を要することも少なくありません。
また、一台当たりの代金が高額であるため、契約が解除されるようなことになれば会社の経営に打撃を与えかねません。
顧客の希望にそって機械を製造したうえ、製造した機械を販売する契約は、「製作物供給契約」と呼ばれ、生産設備の取引でよく見られる契約形態ですが、実は、民法に製作物供給契約という契約に関する規定はありません。
製作物供給契約は、仕事の完成を目的とする請負契約と、完成品の売買契約との、複合契約と考えられており、請負契約の規定と売買契約の規定のどちらが適用されるのかケースバイケースで考えていく必要があります。
売主あるいは請負人に明確な落ち度が認められない場合であっても、目的となる製品の性能に不備があり、買主あるいは注文主にとって、売買契約あるいは請負契約を締結した目的が達成できないのであれば、何らかの手当が必要になります。
製品の不備を、法律上、「瑕疵」と呼び、目的物に「瑕疵」が認められる場合、瑕疵担保責任といって、買主や注文主に損害賠償請求権や解除権が認められます。
現在の民法では、売買契約において瑕疵担保責任が認められるためには、瑕疵が「隠れた」ものであることが必要とされています。
契約不適合責任について
一方、請負契約において瑕疵担保責任が認められるのは、「隠れた」瑕疵に限られません。
そのほかにも、売買契約と請負契約とで瑕疵担保責任の要件や効果について、異なる規定が設けられています。
製作物供給契約における瑕疵担保責任としては、仕事の完成に至っていない場合には請負契約の問題として処理し、納品の段階で問題があった場合には売買契約の問題として処理するなどの考え方をとることもありますが、双方の利害関係が絡むと一筋縄ではいきません。
そのため、製作物供給契約を締結するに際しては、売買契約や請負契約の規定を参考にしつつ、担保責任に関する規定を契約書上に明記しておくことが望ましいと考えられます。
瑕疵担保責任は、その制度趣旨について、昔から学説が対立していましたが、現在の裁判実務では、契約の締結目的に適合した品質を備えているかという、実質的な見地から判断され、このたびの債権法改正では、『契約不適合責任』として整理されました。
債権法改正後
債権法改正後は、契約書上も、瑕疵担保に関する規定としてではなく、契約不適合責任に関する規定、として明記することになるでしょう。
例えば、家電や自動車などであれば、品質に関してある程度の判断材料がありますが、化粧品の生産設備の場合には一日当たりの生産量や生産する製品の均一性について、その業界の取引通念や、技術に関する知識など、専門的な知識がなければ判断できません。
そこで重要になるのが、契約書作成の段階で取り交わす仕様書です。
最新の技術を導入したり、一点ものの機械であれば、仕様書に具体的な内容を記載することはなかなか困難かもしれませんが、それでも、予め考えられる可能な限りの情報を仕様書に具体的に盛り込むことで、製品の不備が疑われた場合の問題解決をスムーズに行うことができます。
製造、販売業者の方にとっては、常日頃、顧客からどのような提案を受けて、どのような製品を製造、販売しているのかを把握する弁護士がいれば、いざ、取引先との間で機械の納品についてトラブルが生じたとしても、迅速な対処が可能になります。
紛争の有無にかかわらず、製作物供給契約の契約締結の段階で弁護士にご相談いただければ、製造、販売業者の方にとってもメリットがあるはずです。