1. 契約書とは
裁判では、そもそも契約が成立したかどうか、また契約が成立していれば、その内容はどのようなものであったのかが、問題になることが非常に多くあります。 契約の成立とその内容を証明するためには、契約書が何よりも重要です。
企業法務や事業継承
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企業法務 – 概要
事業承継の概要
裁判では、そもそも契約が成立したかどうか、また契約が成立していれば、その内容はどのようなものであったのかが、問題になることが非常に多くあります。 契約の成立とその内容を証明するためには、契約書が何よりも重要です。
契約とは、当事者の意思表示が合致することにより、成立する法律行為をいいます。例えば、会社を経営する際に、日常的に行われる製品製造の受発注、商品の販売、従業員の雇用は、それぞれ請負契約、売買契約、雇用契約といいます。
また、契約は、口頭でもメールのやり取りでも成立します。
誤解されやすいのですが、契約書という書面を作成しないと、契約が成立しないと思っている人がいます。
しかし、契約の成立には、契約書は必要ではありません。契約したことと、契約の具体的内容を証拠として残すために、作成されるものに過ぎず、契約書の作成は契約の成立要件ではありません。
裁判では、必ずと言っていいほど、当事者の言い分が異なります。裁判所は、どちらの言い分が正しいかについて、現場に行って自分で証拠を集めたりしてくれるわけではなく、基本的には当事者が提出する証拠に基づいて判断します。
そのため、裁判では、必ずしも真実が明らかになるわけではありません。具体的には、裁判所が当事者の言い分が正しいのか、証拠によって判断ができないとした場合、当事者の言い分は存在しなかったものとして扱われます。
例えば、A社が商品をB社に売却したとして、B社に対して売買代金を請求している場合、A社が主張する売買契約の事実が、証拠によって判断できないということになれば、裁判所は売買契約をなかったものとして扱い、A社の売買代金の請求が認められないという結果になります。
このように、契約書は将来的に争いになった場合に交渉を優位に進めたり、裁判になった場合には、契約書を証拠として提出し、会社に有利な結果を実現するために作成する必要があるのです。
「自分の会社は信頼できる業者との取引しかしない。口頭でも約束をきちんと守ってくれるから、契約書は必要ない」と考えておられる方もいらっしゃいます。
通常の取引が継続している場合は、特に問題になることはありません。しかし、いったんトラブルになったり、担当者が退職して、契約した当時の経緯を把握している者がいなくなったり、取引先の資金繰りが悪化したりしたような場合は、口頭での約束を平気で反故にすることはよくある話です。
契約書に何を書けばいいのかという観点からは、いわゆる5W1Hの発想が参考になると思います。
具体的には、「いつ」「誰が」「誰に対して」「どこで」「何を」「どうする」という観点から、契約書を作成していきましょう。
平成30年1月1日までに(いつ)、A社が(誰が)、B社に対して(誰に対して)、B社の営業所に(どこで)、商品を(何を)、納品する(どうする)といった具合です。
その中で、最も注意が必要なのは、「何を」の部分です。目的物の特定(何を)が不十分なために、裁判で争いとなるケースが非常に多いからです。
例えば、A社が建築用機械をB社に無償で貸していたのですが、その契約の終了を原因として、機械の返還を求めたケースがありました。
A社は、機械の返還を求めて裁判をし、裁判所は無償で貸した契約(使用貸借契約といいます)が終了したことは認めたのですが、個々の機械の特定(通常は型式や製造番号で特定します)ができず、裁判所が機械の返還を認めなかったということがありました。
この例からも明らかなとおり、契約書はただ作ればよいというものではなく、裁判になったときに、証拠として意味があるものでなければなりません。
契約書を作成するにあたっては、見てくれがいい必要はなく、その内容が5W1Hを踏まえて、きちんと記載されているかを注意しましょう。
作成したいと考えている契約書について、一般的なひな型が記載された書籍やウェブサイトも多く存在しますが、これらを参考にして実際の契約書を作成する際には注意が必要です。
実際に契約する内容と、ひな型の契約書の意向が異なっていることもあります。
例えば、A社は自社の看板を、B社が経営する店舗で使用することを許可しましたが、看板料としての報酬をB社から受け取るつもりはなく、A社が納品する商品をB社に供給できればよいという契約類型があったとします。
その場合、よくひな型にある「フランチャイズ契約書」とも「商号使用許諾契約書」とも異なる、独自の契約書を作成する必要があるのです。
この際に、ひな形の契約書を変容して作成しようと思っても上手くいきません。
また、契約書のひな型が、どちらの利益を重視して作成されたものなのかについて、容易に判断することはできません。
ひな型を使って契約書を作成したことで、思いがけず自社の利益を害することもあるのです。自社の利益のために契約書を作成するのであれば、やはり専門家に相談して作成する必要があるでしょう。
ここまで読んでいただければ、契約書の重要性と、どのように作成すればよいかについて、大まかにはご理解いただけたと思います。
ただ、契約書を作成する際には、契約の相手方との優劣関係、当時の市場の状況、損害を回避して自社が有利になるための条項など、さまざまな事情を考慮しなければなりません。作成するときは、信頼できる弁護士に相談した方がいいでしょう。