1.成年後見制度は誰でも利用できる?

「成年後見手続きの流れ」の中で、成年後見には「後見」「保佐」「補助」の3種類があることを説明しました。では、どのような場合に利用できるのでしょう。
 
後見、保佐、補助の要件はそれぞれ異なりますが、3つの違いは障害の程度の違いとなります。
 
民法の条文上の規定では、「精神上の障害により、事理を弁識する能力を欠く常況にある者」が「後見人」を、「精神上の障害により、事理を弁識する能力が著しく不十分である者」が「保佐人」を、「精神上の障害により、事理を弁識する能力が不十分である者」が「補助人」をつけることができるとされています。
 
条文を読んでも一般の方には、その内容をイメージしづらいと思います。
 
一般的に後見開始の要件に該当するとされているのは、アルツハイマー型認知症、脳腫瘍・てんかんによる障がい、統合失調症、アルコール依存等の疾患、精神遅滞等の障がいにより判断能力が低下している事例等があげられます。

(1)条文の意味について

条文上の規定にある語句がどのようなことを意味しているのか、それぞれ説明しましょう。

(ア)「事理を弁識する能力」について
 
「事理弁識能力」ともいいますが、この言葉は一般の方はあまり聞きなれない言葉だと思います。法律行為の結果を判断することができるだけの精神能力のことです。
 
具体的には、この商品を購入するといくら支払う義務が発生し、自分には貯金と収入がいくらあるから自分はこの商品を買うことができる、といったことを判断する能力だとイメージしてください。
 
(イ)「精神上の障害」について
 
病気や怪我などの特別な理由に基づく「精神上の障害」だけでなく、単に加齢によるものも含みます。
 
ただし、身体障害によって意思表示が困難である場合などは含まれないため、身体障害により日常生活に支障があり、なんらかの援助が必要な場合も、民法上の成年後見制度の対象ではありません。
 
(ウ)「常況」について
 
後見人の規定にある「常況」は、通常の状態であることを指します。
 
事理弁識能力を「たまに」喪失する程度では足りず、「常に」または「だいたいにおいて」事理弁識能力を欠く状態にあることが必要となります。

3.家庭裁判所による判断基準とは

家庭裁判所は、事理弁識能力や精神上の障害の程度によって、後見・保佐・補助のいずれかを付す必要があるかどうかを判断します。
 
事理弁識能力は法律上の概念であり、実は医学上の概念ではありませんが、家庭裁判所が事理弁識能力を判断するために参考にする診断書や鑑定書は、医師が診断したものです。
 
つまり、医学的に検査された知的能力や認知能力等に関するデータ等をもとに、法律上の概念である事理弁識能力の程度を判断しているということになります。

(1)事理弁識能力を判断するための検査とは?

事理弁識能力を判断する前提となる「知的能力」や「認知能力」の各種能力を判定する際に利用される検査には、以下のようなものがあります。


 

(ア)改訂長谷川式認知症スケール(HDS-R)
 
数種類の質問の結果により認知症を判断する検査。「認知症でない」から「高度認知症」までの5段階で判断されます。簡単なわりに結果の信頼性は高く、多くの医療機関などで利用されています。
 
(イ)ビネー式知能検査
 
全体的な知能の発達度を把握するために利用される検査です。知的能力ごとの発達度を測定するものではなく、「鈴木ビネー式」と「田中ビネー式」があります。
 
(ウ)ウェクスラー式知能検査(WAISⅢ)
 
16歳以上の成人用に開発された、知能(IQ)を測るための一般的な検査。知的障害の判断や認知症初期の判断としてよく実施されます。
 
(エ)ミニメンタルステート検査(MMSE)
 
認知症を判断するための検査。口頭で行われ、質問に対する回答により記憶力、計算力、言語力、見当識を測定します。
 
(オ)金銭管理能力評価尺度(FCAT)
 
自立した生活を行うために必要な金銭管理能力を把握する検査。6つの領域の能力から全体的な金銭管理能力を把握します。

4.制度が利用できるかどうかも含め、一度弁護士へご相談ください

成年後見制度を利用できるかどうかについては、医師の作成した診断書や鑑定書などの医学的な判断が重視されはするものの、最終的には家庭裁判所の法律的な判断に基づいて決定されます。
 
成年後見制度を利用できるかどうかわからない、申立てをしようか迷っているという場合には、弁護士に相談ください。
 
最終的には家庭裁判所の判断になるため、弁護士でもはっきりとした結論を出すことはできませんが、一定の見通しはお伝えできるでしょう。