01.「契約書なし」でも代金回収は可能か?

建設業法第19条では、工事請負契約書の締結が義務付けられています。しかし、実際の現場では「見積書のみ」「メールやLINEでの発注」「口約束」で着工してしまうケースが依然として少なくありません。

結論から申し上げますと、 契約書がなくても代金回収は可能です。 なぜなら、契約は「申込み」と「承諾」の意思表示があれば成立するものであり、契約書はその「証拠」の一つに過ぎないからです。

1-1. 契約書がない場合に集めるべき「代替証拠」

契約書がない場合、裁判所や相手方に対して「契約の存在」と「工事の実態」を証明するために、以下の証拠を総動員します。

見積書・発注書(注文書): 相手方が受け取った記録があるもの。
メール・LINEの履歴: 「これで進めてください」「了解しました」といったやり取り。
現場の写真・図面: 実際に工事が行われたことを示す視覚的証拠。
工事日報・打ち合わせ記録: 日々の作業内容や立ち会い記録。
一部入金の事実: 過去に一度でも入金があれば、契約の存在を強く推認させます。

02.「追加工事」の代金を確実に回収するポイント

「ついでにこれもやっておいて」という現場監督の口頭指示。これに応じた結果、後から「そんな依頼はしていない」「当初の金額に含まれているはずだ」と支払いを拒否されるトラブルは非常に多いです。

2-1. 追加指示はその場で「可視化」する

理想は追加の変更契約書を交わすことですが、忙しい現場では困難です。その場合、以下の対策が有効です。

その場でメール・LINEを送る: 「先ほど指示をいただいた〇〇の追加工事、承知いたしました。概算で〇〇万円程度追加になりますが進めます」と記録を残す。
確認書の活用: 現場監督のサインをもらうだけの簡易的な「追加工事確認書」を常備しておく。

03.弁護士による「泥臭く、かつ強力な」実践テクニック

単なる督促状の送付だけでなく、状況に応じた法的手段を組み合わせることが早期回収の鍵です。

3-1. 内容証明郵便による「最後通告」

弁護士名義で内容証明を送ることで、相手方に「本気で裁判を辞さない構えである」というプレッシャーを与えます。これだけで支払いに応じるケースも少なくありません。

3-2. 民事保全(仮差押え)の活用

裁判の前に相手方の 「預金口座」 や 「元請けに対する売掛金」 を凍結する「仮差押え」を行います。口座や売掛金が凍結されると相手は事業継続が困難になるため、早期の支払いに応じるケースが多く、非常に強力な手段です。

3-3. 支払督促(しはらいとくそく)

相手方が「払いたいがお金がない」など、未払いの事実自体は認めている場合に有効です。裁判所での審理を経ずに、書類審査だけで強制執行(差押え)の権限を得られる、簡易・迅速な手続きです。

04.建設業法に準拠した「強い契約書」への見直し

トラブルが起きてからの対処も重要ですが、最大の防御は「トラブルが起きない契約書」を作っておくことです。

4-1. 建設業法第19条(法定記載事項)の遵守

建設業法では、契約書に記載すべき15項目以上の事項が定められています(工期、請負代金の額、支払方法、工期変更時の定めなど)。法改正に対応できていない古い雛形はリスクがあります。

4-2. 自社に有利な「特約」の活用

所有権留保特約: 代金が完済されるまで、設置した資材や設備の所有権は自社にある状態を保ち、回収の可能性を残します。
期限の利益喪失条項: 一度でも支払いが遅れた場合、残金を一括請求できるようにします。