2. 事業計画の柱について
(1) 現状の把握とは
(ア)事業承継計画の立案にあたって、まず必要なことは、現状の会社の状況を把握することです。
いうまでもなく、会社の事業を後継者に承継させるにあたって、どのような会社で何をしているのかがわからなければ、後継者もどうしてよいかわからず、いきなり会社の運営が停滞することになります。
また、これからも会社の事業を維持・成長させていくために、現時点で利益を確保できる仕組みがどうなっているのか、商品やサービスの内容が業界内でどのような状況になっているのかなど、長期的な目標設定のためにも、現状の把握は不可欠です。
現状把握としては、事業・資産・財務の3つを中心に確認をすることが大切です。
(イ)「事業の把握」とは、現在の会社の取引状況や、現在の社会における事業の将来性を再確認することです。
会社の経営体質を確認することで、これから取り組むべき課題を明らかにすることができます。従業員の人数・年齢なども、後継者の選定や承継後の目標設定に、重要な意味を有しています。
(ウ)「資産の把握」とは、現在の会社の資産状況を再確認することです。
会社保有財産の有無及び内容を確認することはもちろん、経営者個人の資産について、会社との貸借関係がないかについても把握する必要があります。
これは、後継者が会社を承継するにあたって、どの程度の経営資源を受け継げるのかを明らかにすることで、承継後の事業が現状維持できるのか等を検討することができます。また、事業を承継する後継者にとっても、具体的な資産状況が明らかになることで、不安を軽減することができます。
(エ)「財務の確認」とは、会社の会計処理の状況を再確認することです。
客観的な財務状況を明らかにすることで、会社の財政傾向や競争力等が見えてくるようになります。
特に、会社を承継することにより、それまでの経営力を維持できるかどうかが、銀行や取引先にとっての関心事となります。客観的な財務状況を示して、事業承継前後における信用を維持するということも、大切なポイントになります。
(2) 承継の方法・後継者の確定とは
(ア)会社の現状を把握したうえで、誰にどのような方法で承継するかを検討します。事業承継の方法として、大きく分けて「親族内承継」か「親族外承継」に大別されます。また「親族外承継」は、「従業員や外部への承継」と「M&A」に分かれます。
(イ)「親族内承継」を選択するとすれば、候補者は親族内の誰かとなるため、自然と後継者が絞られることになります。
親族であるならば、後継者との信頼関係を築きやすく、意思疎通が図りやすいと一般に考えられます。また、会社の資産内容が経営者の個人資産に大きく影響している場合、経営者の相続による財産や株式の移転を検討することができます。
他方で、親族内に後継者にふさわしい人物が存在するかどうかは、会社によってまちまちです。相続人が複数いるような場合には、会社の経営権が分散してしまい、決定権も分散するという可能性があります。
(ウ)「親族外承継」の場合には、親族以外から広く候補者を求めることができます。特に社内で中心的な従業員であれば、親族以上に会社の経営を熟知していると考えられるため、承継後も変わらない事業運営が期待できます。
他方で、経営者の財産を相続等によって取得できないため、株式等の取得の資金源や相続発生後の経営権での不安を抱えることになります。
従業員以外の人を候補者とする方法として、M&Aがあります。これは、いわゆる企業の合併・買収を指し、広く会社の外から候補者を探すことができる反面、希望の条件で買い手を見つけることの困難さや、経営主体が全く変わってしまうことによる、事業運営の変更などのリスクが考えられます。
(3) 事業承継計画の作成とは
以上のとおり、現状の把握及び後継者の選択が定まった場合には、実際の事業承継計画の作成を行います。
これは、単に決まったことを書面にするだけではなく、事業承継の中長期的な目標を設定し、それに向けて具体的にどのようなプロセスを行っていくかを、後継者とともに作り上げていく作業になります。
その中で重要なのは、経営理念の共有化です。事業承継は、それまで会社を経営してきた経営者の経営に対する想いや価値観、信条といった経営理念をきっちりと後継者へ承継する手続です。
後継者とともに事業承継の計画を立てていく中で、このような目に見えない経営手法を後継者へ引き継ぐというプロセスを経ることが、円滑な事業承継には不可欠です。