運送約款の重要性について(運送業)
宅配便は、一般消費者を中心とした多数の利用者を顧客とし、大量の小口の荷物を割安な運賃で運送するサービスですが、このような定形的なサービスを効率的に提供するのに役立っているのが約款です。
約款による責任制限について
商品の運送中、宅配便業者の過失によって、商品を紛失してしまった場合、宅配便業者は、商品の紛失によって利用者が被った損害を賠償する義務がありますが、その賠償の範囲については約款によって、民法や商法の規定よりも制限されています。
たとえば、商法では、荷物が紛失した場合の賠償の範囲は、引渡し予定日における到達地の価格、と規定されています。
卸売業者のもとから小売業者宛てに商品を運送した場合、小売業者の元に到達した商品の価格には運賃や中間手数料が上乗せされることになりますが、到達地の価格はこうした運賃や中間手数料が上乗せされた価格のことを指します。
ところが、宅配便は一般消費者の元に商品を運送するものであり、到達地において発送地の荷物の価格に運賃その他の費用を加算されることが想定されていないため、宅配便約款では、賠償の範囲は、発送地の価格と定められています。
すなわち、宅配便業者が負うべき損害賠償の範囲について、商法では到達地の価格とされているものが、約款によって、発送地の価格に制限されているのです。
なお、損害額の算定にあたっては宅配便の運賃相当額については考慮されませんが、宅配業者の責任によって商品が滅失した場合には、運賃を払い戻すことが約款の別の条項で定められています。
これまでの判例においても、運送業者の賠償責任の範囲を制限する約款の定めについても運賃を可能な限り低い額にとどめるために合理的なものであるとして、有効と判断されています。
宅配便の運送中に荷物がなくなった場合、利用者は商品の価格だけでなく、商品を利用できなかったことによる損害や代替品の購入費用なども含めて請求したいと考えますが、上記のような約款の定めに従えば、商品の発送地価格以外の請求は認められない、ということになります。
利用者としては宅配便の利用時に約款の内容を熟知しているわけではないため、約款がある、の一点張りでは納得しないことも多くあるでしょう。
裁判に発展する場合に限らず、任意の交渉の段階でも、ただ単に約款がある、と主張するだけではなく、民法の規定や商法の規定に照らした約款の趣旨まで説明することで、相手方の理解を得られることがあるかもしれません。
債権法改正との関係
このたびの債権法改正により、約款の有効性や、適用範囲が民法に直接的に規定されることになり、宅配便約款を契約の内容とする旨の合意をするか、宅配便業者が約款を契約の内容とする旨を利用者に表示していたときに、約款の内容についても合意したものとみなす、という規定ができました。
債権法の改正に合わせて、契約締結の際の約款に関する説明の方法や、約款の内容そのものを見直しておく必要があるかもしれません。
事業者の方にとって約款は重要です。約款について、問題が生じる前から、弁護士にご相談されてはいかがでしょうか。