1. ネット中傷被害とは

一口にインターネットでの権利侵害といっても、様々な形態があります。
最も身近なものは、
「掲示板で実名をさらされ、事実と異なることを書き込まれて誹謗中傷された」「ブログで個人の住所や人に知られたくないプライベートな内容を暴露された」 
など、インターネット上の掲示板、ブログ、ツイッター、フェイスブック、ホームページ等に個人や会社を誹謗中傷する内容を書き込まれることで、名誉やプライバシーなどの権利を侵害されたといったケースです。
特に、掲示板の場合は、その多くが匿名で書き込むことができるので、書き込んだ者(これを「発信者」といいます)を容易に特定できないという特徴があります。
その一方で、ネット上の掲示板等は、通常は一般公開されて不特定多数の人が閲覧できるので、急速に情報が流通・拡散するおそれがあります。その影響力は計り知れず、甚大な被害が生じる恐れがあるのです。
ここでは、ネット上の誹謗中傷による被害の拡大を防止し、回復するために、被害者が取るべき法的措置を大まかに説明します。

2. 保護の対象となる権利について

当然ですが、インターネット上の情報について、自分や会社に都合の悪いものであったとしても、その全てを削除できたり、損害賠償の対象となるわけではありません。
つまり、インターネット上に記載されている情報が、個人や会社の名誉権や個人のプライバシー権など、何らかの権利を侵害するものでなければなりません。
詳しくは、こちらを参考にしてください。 

3. 法的措置について

インターネット上の情報によって、個人や会社が何らかの権利を侵害されていれば、これに対する法的措置を検討することになります。以下の(1)~(3)が代表的なものです。(4)~(6)については、(1)削除請求や(2)開示請求に任意に応じてもらえない場合に、必要となる手続きです。

(1) 削除請求とは

ネットの掲示板やブログに個人の名誉を棄損する書き込みがある場合、これを放置すると情報が拡散し、被害が拡大してしまいます。そうすると、権利を侵害しているおおもとである当該書き込みを削除しなければなりません。
削除請求とは、個人の権利を侵害している書き込み等について、掲示板やブログ等の管理者に削除を請求することをいいます。
この削除請求は、プロバイダ責任制限法に規定されています。
但し、削除請求する場合、書き込んだ者に対して、損害賠償請求など責任を追求するつもりがあれば、注意が必要です。書き込んだ者を特定する情報まで削除されてしまい、特定することができなくなってしまう可能性があるからです。
削除請求の具体的な内容は、こちらを参考にしてください。

(2) 発信者情報開示請求とは

権利を侵害する書き込みをした者(以下、「発信者」といいます)に責任を追求しようとする場合、まず、相手の氏名・住所等で特定しなければなりません。
例えば、2chなどの掲示板は、匿名で書き込みができます。しかし、匿名で書き込みができるとしても、書き込みを行うときに発信者の情報が記録されるのです。
責任を追求する場合、この情報から発信者を特定する作業を行わなければなりません。この情報を保有する「プロバイダ等」に対して、情報の開示をするよう求めるのが発信者情報開示請求です。
相手に対し名誉棄損罪(親告罪)や業務妨害罪などの刑事責任を追求したいのであれば、警察に相談してみましょう。警察が動いてくれるのであれば、捜査機関が相手を捜査して特定してくれます。
捜査機関の行う捜査も、発信者情報開示請求なのです。
民事責任追求の場合は、これを自分で行わなければなりません。また、プロバイダ等も捜査機関に対する情報の開示より、被害者自身あるいはその代理人である弁護士に対する情報開示の方が慎重になり、任意に開示に応じてくれない場合もあります。
発信者情報開示請求の具体的な内容は、こちらを参考にしてください。

(3) 損害賠償請求とは

発信者(加害者)を特定できれば、発信者に対して不法行為に基づく損害賠償をしていくことが可能となります。まずは、内容証明等の書面で慰謝料の請求、また書き込みが続いているのであれば、止めるように請求することになります。これに応じなければ、訴訟等の裁判手続きを利用することになります。 

  

(4) 削除仮処分とは

プロバイダ等に削除請求をしても、任意に開示に応じてもらえない場合もあります。任意の削除がされない場合、裁判手続きを利用して削除を求めることになります。
プロバイダ等を相手とした、書き込み等の削除を求める裁判上の方法としては、本訴提起もあり得ます。しかし、迅速な被害者救済という観点から、民事保全法の仮処分手続きを利用することが一般的です。
書き込み等の削除の仮処分は、「満足的仮処分」(仮処分の発令により、判決を待たずに判決を得たのと同様の結果が生じる処分)にあたるので、権利救済の実現のため本訴と変わらないからです。

(5) 発信者情報開示仮処分とは

発信者情報開示請求は、裁判手続を利用しなくてもできます。しかし、プロバイダ等に発信者情報開示請求を行ったが、任意に応じてくれない場合や、プロバイダによっては、初めから任意の開示請求には応じない対応をしているところもあります。
そのような場合、裁判所から開示を命じてもらうため、仮処分を申し立てる必要があります。
この場合も、(4)削除仮処分で述べたのと同様、本訴よりも迅速に判断してもらえる仮処分によるのが一般的です。詳しくは、発信者情報開示請求のページで説明しますが、発信者を特定するには、2段階あるいは3段階の手続きを経る必要があります。アクセスログ情報の保存期間という制限があるので、1段階目を本訴で争っているうちに、アクセスログ情報が削除されることがないように気を付ける必要があります。

(6) 発信者情報開示請求訴訟とは

発信者のアクセスログ情報とは異なり、発信者の氏名や住所等の情報を保有している、発信者の接続プロバイダに対する発信者情報の開示請求は、仮処分を用いることは原則としてできません。本訴の提起が必要となります。
保有している情報が重要な個人情報であることに加え、接続プロバイダは発信者の氏名や住所を保有しているので、アクセスログ情報さえ保存できれば、仮処分で開示するべき緊急性が認められず、保全の必要性の要件を満たさないからです。

4. まとめ

どのような法的措置を取るべきかについては、被害者の希望が何なのかによって変わってきます。すなわち、
①当該情報がインターネット上から消えることのみでよいのか
②当該情報を発信した人物を特定し、これ以上書き込まないように要求するのか
③書き込んだ人物に、慰謝料などの損害賠償まで求めるのか
といった具合です。例えば、①のみでよいということであれば、削除請求のみということになります。
しかし、権利を侵害する書き込みが1回だけという場合なら良いのですが、何回も継続している場合、削除しても再び書き込みがなされ、また削除するというイタチごっこになってしまい、解決にはなりません。
まずは、どのような被害を受けているのか、いつから被害を受けているか、どこまで広がっているかなどを把握しましょう。そして、解決のためにはどのような法的措置が効果的かを検討する必要があります。また、②や③を取ろうとする場合、発信者の情報は、保存期間が過ぎれば削除されていくので、速やかに確保に動く必要があります。