松本永野法律事務所
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1.解雇には然るべき手続きや理由が必要

解雇とは、使用者が労働者との間の雇用契約の解約を行うことです。
 
民法の規定では、期間の定めのない労働契約の当事者はいつでも解約の申し入れをすることができ、申入れの日から2週間を経過することによって終了すると規定しています。
 
また、解約に対して労働者の同意は不要で、使用者側の自由な選択により行うことができるとされています。
 
もっとも、労働契約法16条では、「解雇は客観的に合理的理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合には、その権利を濫用したものとして無効とする」と規定しています。
 
これは、最高裁判所において確立された解雇に関するルール(解雇権濫用法理)を条文化して明確化したものです。労働者の地位を保護するため、雇用者の解雇権は制限されているのです。
 
ここでは、解雇について解説していきます。

2.解雇の手続きについて

民法の規定では、2週間の予告期間をおけば労働者を解雇することができることになっています。
 
しかし、労働基準法20条1項では、労働者の地位を保護するため労働者を解雇しようとする場合、解雇の日の少なくとも30日前に予告しなければならないと規定しています。これを「解雇予告制度」といいます。
 
解雇予告せずに即時解雇しようとする場合には、30日分以上の平均賃金を支払わなくてはなりません。これを「解雇予告手当」といいます。
 
判例では、「解雇予告除外事由がない限り、即時解雇としての効力は生じないが、解雇通知後30日間の経過、または通知後に予告手当の支払いをした場合、解雇の効力が生じる」としています。
 
例えば15日分の平均賃金を支払うことで、解雇予告期間を15日に短縮するということができるということです。
 
そのため、予告なしに解雇された労働者が訴えを起こす場合、手続き違反を理由に解雇の有効性を争うことはできず、予告手当の請求をしていくことになります。
 
ただし、天災などの「やむを得ない事由によって事業の継続が不可能な」場合、「労働者の責に帰すべき事由」に基づく解雇の場合、労働基準監督署による解雇予告除外認定を受けた場合、日雇いや短期の期間雇用者、試用期間中のものについても原則として解雇予告は不要となります。

(1)「労働者の責に帰すべき事由」とは

労働者の責に帰すべき事由に該当するかどうかは総合的に判断されますが、次のような事由が挙げられます。
 
(ア)事業場内で盗取、横領、傷害等刑法犯に該当する行為があった場合
(イ)賭博、風紀紊乱等により職場規律を乱し、他の労働者に悪影響を及ぼす場合
(ウ)雇入れの際の採用条件の要素となるような経歴を詐欺した場合、および雇入れの際、使用者の行う調査に対して不採用の原因となるような経歴を詐称した場合
(オ)他の事業場へ転職した場合
(カ)原則として2週間以上正当な理由なく無断欠勤し、出勤の督促に応じない場合
(キ)出勤不良又は出欠常ならず、数回にわたって注意を受けても改めない場合

3.解雇の種類とその有効性について

解雇は、大きく「普通解雇」「整理解雇」「懲戒解雇」の3つに分けることができます。

(1)普通解雇

普通解雇は、就業規則に定められた解雇事由に該当する場合の解雇です。
就業規則に定められた解雇事由は、列挙された事由以外では解雇しないという意味を持つ「限定列挙」であることが明示されていない限り、例示的なものと解されます。
 
就業規則に規定されていることが多い例としては、無断欠勤などの労働義務の不履行による解雇、勤務態度や業績不良などの能力不足による解雇、心身の故障等による労務提供不能による解雇、業務命令違反による解雇等があります。
 
就業規則に規定されている理由に該当すれば直ちに解雇できるということではなく、その理由が客観的に合理的な理由でなければ、解雇権濫用として解雇が無効となることもあります。


 

(2)整理解雇

整理解雇とは、企業の経営上の理由により人員削減が必要な場合に行われる解雇です。整理解雇が認められるためには、原則として以下の4要件をすべて満たす必要があります。
 
(ア)人員整理の必要性
 
客観的に維持存続が危ういほどの高度の経営危機下にあること
 
(イ)解雇回避努力義務の履行
 
役員報酬の削減や希望退職者の募集、配置転換等によって、整理解雇を回避するための努力がなされた末の整理解雇であり、客観的にやむを得ないと判断されること
 
(ウ)被解雇者選定の合理性
 
選定基準および具体的人選が合理的かつ公平であること
 
(エ)手続きの妥当性
 
解雇にあたり被解雇者との間に説明や協議など、納得を得るための手続きを踏んでいること


 

(3)懲戒解雇

懲戒解雇とは、就業規則上に懲戒解雇事由が規定されており、その事由に該当する具体的な事実がある場合に行う解雇です。
 
懲戒解雇は、企業秩序の違反に対して使用者により課せられる一種の制裁であり、使用者が有する懲戒権の発動のより行われるものなので、普通解雇の有効要件とは異なり、解雇予告なしの「即時解雇」を行うのが通常です。
 
ただし、即時解雇で解雇予告手当を支払わなくていいのは、労働基準監督署による解雇予告除外認定を受けた場合だけなので、実務的には懲戒解雇の場合でも解雇予告手当が支払われるのが通常といえます。
 
懲戒解雇が有効となる要件は以下です。
 
(ア)根拠規定の存在
 
就業規則に懲戒の種別および事由が明示的に定められている必要があります。
 
(イ)処分時に使用者が認識していること
 
処分時に使用者が認識していなかった非違行為については、特段の事情がない限り、懲戒の有効性を根拠付けることはできません。
 
(ウ)懲戒権濫用でないこと
 
懲戒の原因となる非違行為が、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、懲戒権を濫用したものとして懲戒解雇は無効になります。
 
(エ)手続の履践
 
就業規則や労働協約上で、懲戒解雇に先立ち、組合との協議や労働者の弁明の機会の付与等の手続きが要求されている場合、この手続きを欠く懲戒解雇は無効と判断する判例が多くあります。

4.試用期間中の解雇について

試用期間とは、本採用前に労働者の能力や適性等をみるために一定期間雇用する期間のことで、法的性質として「解除権留保付雇用契約」とされる場合が多いです。
 
一種の労働契約が成立しているため、試用期間の解除や本採用拒否については解雇にあたります。
 
解除権留保の目的から、通常の解雇の場合よりも広い範囲の自由が認められますが、解除権留保の趣旨目的に照らして客観的に合理的な理由や、社会通念上相当として認められない場合は、解雇は認められません。

5.労働者が解雇通告を受けた場合の流れ

(1)解雇理由証明書の請求

労働者が解雇通告を受けた場合、いかなる理由により解雇しようとしているのかを確認する必要があります。そこで、労働者は使用者側に解雇理由証明書を請求することになります。
 
労働者が解雇理由について証明書を請求した場合、使用者は遅滞なくこれを交付しなければなりません(労働基準法22条1項)。


 

(2)解雇の撤回・無効確認の請求

解雇理由証明書の記載内容を確認した上で、解雇に正当な理由がないと考えられる場合には、使用者に対して解雇の撤回、または解雇無効の確認を求める請求書を出すなどの交渉を行います。


 

(3)労働審判の申し立て

労働審判とは、解雇や給料の不払など事業主と個々の労働者の間の労働関係に関するトラブルを、迅速、適正かつ実効的に解決することを目的とした裁判所での手続きです。
 
労働審判を申し立てると、「労働審判官(裁判官)」1名と、労働関係に関する専門的な知識と経験を有する「労働審判員」2名(通常、使用者側と労働者側の立場の側から1名ずつ)で組織された「労働審判委員会」による審理が行われます。