1.トラブルにつながりやすい「降格処分」

役職や職務上の資格といった社内の地位を下げる「降格処分」。減給や裁量権の縮小を伴うことも珍しくなく、労働者にとっては重い処分となります。
 
降格処分は、厳格な基準を満たした「懲戒処分としての降格」か、ある程度会社が自由に行うことのできる「人事上の措置としての降格」のみ、その有効性が認められます。
 
有効性のない降格処分は、仕事へのモチベーションを下げるだけでなく、退職や訴訟問題といった大きなトラブルへと発展しかねません。
 
ここではそれぞれの降格処分の定義について解説しましょう。

2.人事上の措置としての降格の有効性について

(1)原則的には人事権で降格処分は行える

労働者と使用者の間には労働契約の締結があるため、使用者に「人事権」が認められています。そのため労働契約上の特別な根拠がなくても、原則的には降格処分は行えます。
 
ただし、就業規則に降格の手続きや要件、基準について定められている場合、それらを満たさずに降格を行うことは労働契約に違背するため許されません(労契法7条、同10条)。


 

(2)人事権の行使は公正でなければならない

使用者が有する「人事権の行使」は、社会通念上著しく妥当性を欠き、権利の濫用に当たると認められる場合でない限り、違法とはなりません(東京地判平成7年12月4日)。
 
労働者を企業組織の中でどのように活用・統制していくかは、使用者に委ねられた経営上の裁量判断に属する事柄だからです。これを「人事権の裁量論」といいます。
 
そのため、人事権の行使として行われる降格についても、人事権の濫用に当たる場合のみ「無効」となります。
 
(ア)人事権の濫用に当たるケースとは
 
「使用者側における業務上・組織上の必要性の有無およびその程度、能力・適性の欠如等の労働者側の帰責性の有無およびその程度、労働者の受ける不利益の性質、およびその程度等諸般の事情を総合考慮するのが相当だ」という裁判例があります(大阪地判平成22年5月21日)。
 
業務上の必要性がない場合や、嫌がらせや見せしめといった制裁を目的としたケース、婚姻の有無や性別による査定などは権限の濫用にあたり、降格が無効となるだけでなく、違法と判断され損害賠償の対象にもなります。


 

(3)降格が有効でも賃金減額も有効とは限らない

降格処分に有効性がある場合でも、自動的に賃金減額も有効となるわけではありません。降格は「人事権の行使」にあたり、賃金減額は「労働条件の変更」という性質が異なる措置だからです。
 
賃金減額については、降格とは別に労働契約上の根拠(個別合意、就業規則、労働協約)が必要となります(東京地判平成24年11月27日)。したがって、降格は有効でも、賃金減額は無効となる場合もあるのです。
 
(ア)役職手当や職能給が就業規則にある場合
 
就業規則上で降格と賃金の減額が連動している場合には、労働契約上の根拠があるため、降格に伴う賃金減額が有効になる場合があります。
 
例えば、就業規則に部長の役職手当として20万円が支払われることが記載されているような場合です。ほかにも、職能資格と賃金が連動しているケースや、資格等級に伴い支給される賃金の変動が明確になっているような場合も含まれます。
 
もっとも、降格と連動する賃金減額幅が不合理に大きい場合や、就業規則上の条項自体にそもそもの合理性がなければ無効と判断される可能性があります(労契法7条、10条)。

3.懲戒処分としての降格処分の有効性について


(1)厳格な判断が必要な「懲戒処分」

「懲戒処分としての降格」を行うには、「根拠規定の存在」が必要となり、懲戒事由を就業規則に明確に定めておかなくてはなりません(労契法15条)。
 
さらに当該行為が懲戒処分に該当するか否かの判断については、労働者本人に弁明の機会を与えるなど合理的な限定解釈を加え、厳格な運用がなされなければなりません。
 
課される懲戒処分は、労働者の懲戒事由の程度や内容に照らして相当なものである必要があります(相当性の原則)。
 
また、同じ規定に対して同じ程度に違反した場合、それに対する懲戒処分も同一であるべきとされています(平等取扱いの原則)。そのことから、懲戒処分は先例を踏まえて行われなくてはいけません。
 
(ア)懲戒処分とは
 
懲戒処分には、口頭による注意である「戒告」「譴責(けんせき)」からはじまり、「減給」「出勤停止」「降格」「解雇」まであり、後者になるほど重い処分となります。