1.遺言の内容

遺言として効力が認められるのは、民法などの法律で定められた事項に限られます。
 
もっとも、実際の遺言書には法律で定められた事項以外の内容が記載されることも多いようです。
 
例えば、付言事項として、相続人に遺留分侵害額請求権を行使しないように希望する内容が記載されたり、遺言者が死んだあとの葬儀・埋葬の方法などについて記載される場合があります。

2.遺言事項

遺言事項について分類すると、①身分上の事項、②相続法規の修正に関する事項、③財産処分に関する事項、④遺言執行に関する事項、⑤その他の事項に大まかに分けることができます。
 
具体的に見ていくと、
 
①身分上の事項としては、認知についての事項(民法781条2項)、未成年後見人の指定・未成年後見監督人の指定(民法839条1項、848条)があります。
②相続法規の修正に関する事項としては、
 
推定相続人の廃除および取消(民法893条、894条2項)、相続分の指定および指定の委託(民法902条)、遺産分割方法の指定及び指定の委託(民法908条)、特別受益の持戻しの免除(民法903条3項)、相続人相互の担保責任の指定(民法914条)、遺留分減殺方法の指定(民法1034条但し書き)
 
③財産処分に関する事項としては、
 
遺贈(民法964条)、一般財団法人設立のための定款作成(一般法人法152条2項)、信託法上の信託の設定(信託法3条2号)
 
④遺言執行に関する事項として、遺言執行者の指定および指定の委託(民法1006条1項)
⑤その他の事項として
 
祭祀主宰者の指定(民法897条1項但し書き)、生命保険金受取人の変更(保険法44条1項)等があります。

3.「相続させる」旨の遺言

特定の相続人に対して、特定の財産を承継させる場合に、「遺贈する」ではなく「相続させる」と記載する遺言書が多く作成されてきました。
 
「遺贈」となれば、不動産の登記名義の変更において、他の共同相続人と共同して登記申請を行わなければならず、「相続させる」旨の遺言であれば、相続登記と同様の取扱ができ、当該相続人が単独で登記名義の変更を行えます。
 
最高裁判所はこの「相続させる」旨の遺言について、遺産分割方法を定めた遺言であるが、何らの行為を要せず、被相続人の死亡の時にさかのぼって直ちに当該遺産がその相続人に相続によって承継される旨判示しました。

4.「相続させる」旨の遺言と遺贈との違い

まず、不動産を承継する場合に、登記名義の変更手続きが異なります。「遺贈」の場合は、共同相続人との共同申請であり、遺言執行者が選任されていなければ、共同相続人全員の協力が必要となります。共同相続人が多数存在する場合や相続人間で争いがある場合などは名義変更は困難となります。一方、「相続させる」旨の遺言によれば、受益相続人が単独申請できますので、名義変更は容易です。名義変更の際必要となる登録免許税額については、法定相続人に対する遺贈と相続人による相続登記は同一の税率が適用され、両者に違いはありません。
 
不動産の中でも農地の承継については、「遺贈」の場合は農地法3条の許可が必要ですが、「相続させる」旨の遺言の場合には許可は不要です.
 
また、「遺贈」の場合は、遺言執行者が選任されれば、遺言執行者が共同相続人に代わって登記名義の変更を行うことができます。一方「相続させる」旨の遺言は、被相続人の死亡と同時に特定の遺産が特定の相続人に相続により承継され、その者が単独で登記名義の変更手続きを行うことができるため、遺言執行の余地がありません。

5.代襲相続の有無

「遺贈」をする旨の遺言書を書いたものの、受遺者が遺言者の死亡以前に亡くなった場合はどうなるか。この場合、この「遺贈」をする旨の遺言は効力を生じません(民法994条1項)。一方「相続させる」旨の遺言の場合はどうでしょうか。最高裁判所は、「相続させる」旨の遺言は、当該遺言により遺産を相続させるものとされた推定相続人が遺言者の死亡以前に死亡した場合には、当該「相続させる」旨の遺言にかかる条項と遺言書の他の記載との関係、遺言書作成当時の事情及び遺言者の置かれていた状況などから、遺言者が、上記の場合には、当該推定相続人の代襲者その他の者に遺産を相続させる旨の意思を有していたとみるべき特段の事情のない限り、その効果を生ずることはないと解するのが相当である」と示しました。
 
したがって、遺言者を作成するに当たっては、受益相続人が遺言者よりも先に死亡する場合に備えて、予備的に代襲相続人に相続させる旨を記載しておく必要があると言えるでしょう。