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同居の親族が親の預貯金を横領した場合の対応

2019年1月30日
預金通帳

被相続人の死後、同居あるいは近くに住む相続人による被相続人名義の預貯金等を使い込み、横領が発覚することは、よくあります。
多くは、遺産の調査により、使途不明な出金があることで発覚しますが、生前に発覚することもあります。
被相続人の財産管理能力が要介護状態や認知症などで低下している場合、相続人が被相続人の財産を事実上管理していることが多く、不正な費消が容易になってしまいます。
使い込み、横領は、不法行為に基づく損害賠償請求あるいは不当利得返還請求により返還を求めることができます。
ここでは、親の財産(相続財産)について親族が使い込みをしているパターンを想定し、生前に発覚した場合と死後に発覚した場合について、対応・対策を説明していきます。

生前に発覚した場合

(1) 親の財産管理能力に問題がない場合

まずは、被害の拡大を防ぐため、金融機関に行って、通帳やキャッシュカード、登録印鑑について紛失届を出して、現在の通帳等を利用して払い戻しができないようにして、これ以上の使い込み等を防止する必要があります。
次に、使い込まれた金銭について、親が、使い込んだ親族に対して、損害賠償ないし不当利得返還請求をすることになります。

(2) 親の財産管理能力に問題がありそうな場合

親の財産管理能力が相当程度低下している場合、家庭裁判所に後見人選任の申立てを行う必要があります。成年後見人制度は、精神上の障害により判断能力が低下した者を保護するため、家庭裁判所が後見人を選任し、後見人によって本人の財産管理を行うものです。
したがって、従前に事実上親の財産管理をしていた親族は、後見人選任後は後見人が財産管理を行うことになりますので、それ以上の使い込みはできなくなります。
使い込んだ金銭の返還請求については、後見人の選任後は、後見人が財産管理について代理権を有していますので、後見人が、使い込んだ親族に対して、損害賠償ないし不当利得返還請求をすることになります。

死後に発覚した場合

(1) 手続

遺産分割調停手続きの中でも返還を求めることができます。
もっとも、調停は話し合いですから、相続人間で協議がつかなければ、使い込み、横領の部分を除いた範囲で調停を進めるしかありません。
協議がつかなければ、使い込み、横領をした相続人を相手に通常の訴訟を提起して、損害賠償請求又は不当利得返還請求をしていくことになります。

(2) 調査

親族による使い込み・横領であることを証明する必要があります。

ア 取引状況
預貯金の調査は、口座のある金融機関に対して開示請求をして、取引履歴を取り寄せ不正な使い込み等の有無、その額を確認していきます。どこの金融機関に口座があるかを把握していない場合、被相続人の生活圏内(職場や住所)の近隣の金融機関に対し口座の有無を確認しましょう。
取引履歴を取り寄せたら、個別の出金について、誰が引出したか、使途や親族が引出した場合の被相続人の同意の有無等を確認していきます。
その際には、被相続人の生活状況や健康状態に照らし必要な生活費や医療費等を割り出して、取引履歴と照らし合わせて不自然な出金の有無がないかなどを検討することが重要になってきます。

イ 被相続人の状況
被相続人の財産管理能力がどの時点でどの程度であったかなども、診断書やカルテなどから調査する必要があります。被相続人かかかっていた病院に対し開示請求をしてカルテ等を取得する必要があります。
また、被相続人が介護認定を受けていれば、介護認定を受けていた地方公共団体に対して、介護認定資料の開示請求をする必要があります。

使い込みや横領と疑われないために

同居している親族は、親の身の回りの世話や介護等を行っている場合が多く、それに対する形で、親が生活の援助や贈与をしている場合が少なくありません。ただし、親族間のことであるため、そのことを示す客観的資料が残っていないため、後に紛争となってしまいます。
そこで、事実上財産管理をしている親族は、財産を管理している以上、何にいくら使用したかをきちんと記録しておいて説明できなければ紛争になってしまうということ、親の財産は別個の財産であることを意識しておかなければなりません。
認知症等による財産管理能力の低下が疑われる場合には、後見人を選任しておいて後の紛争を防止することが重要となります。