松本永野法律事務所
LINE LINEでの
ご相談予約
           
MENU

1.「後見」「保佐」「補助」の類型より権限範囲が異なる

成年後見制度が「後見」「保佐」「補助」の3種類を規定し、後見人等の権限の範囲に違いを設けているのは、できるだけ本人の自己決定等を尊重しようとする理念の表れともいえます。
 
「後見」では、被後見人の財産に関する法律行為について包括的な「代理権」を後見人が有しています。後見人は、日常生活に関する行為を除き、被後見人のした法律行為を取り消すことができます。
 
被後見人が後見人の意に反する財産の処分等を行うことはできないのに対し、後見人は被後見人の利益のためであれば、独立して財産の処分等を行うことができます。
 
一方で「保佐」や「補助」の場合、被保佐人や被補助人は一定程度、保佐人や補助人から独立して財産の処分等を行うことができますし、保佐人や補助人は、被保佐人や被補助人から独立して財産の処分等を行う権限を限定されています。
 
ここでは、「保佐人」と「補助人」の権限等について詳しく説明していきます。

2.保佐人が有する「同意権」について

「保佐人」は、以下の行為について「同意権」を有しています。この場合の同意権とは、保佐人が被保佐人の行為に対して賛成の意思を示すことです。保佐人の意思を無視したり、保佐人の同意を得ずに被保佐人が以下の行為を行なったりした場合、保佐人はこれを取り消すことができます。

(1)元本を領収し、または利用すること

元本とは、利息や家賃などを生み出す元となる財産のことです。家賃を生み出す不動産については別に規定がありますので、ここでは主に金銭が想定されていると思われます。


 

(2)借財または保証をすること

他人から借金をしたり、連帯保証人になったりする行為です。


 

(3)不動産その他重要な財産に関する権利の得喪を目的とする行為をすること

不動産売買のほか、雇用契約や保険契約などの身上監護を目的とする契約も含まれます。


 

(4)訴訟行為をすること

ただし、訴訟を提起された場合には、保佐人の同意なくそれに応じることができます。


 

(5)贈与、和解または仲裁合意をすること

贈与はする場合のみに限る。される場合、保佐人の同意は必要ありません。


 

(6)相続の承認もしくは放棄または遺産の分割をすること

(7)贈与の申し込みを拒絶し、遺贈を放棄し、負担付贈与の申込みを承諾し、または負担付遺贈を承認すること

(8)新築、改築、増築または大修繕をすること

(9)民法602条に定める期間を超える賃貸借をすること

民法602条に定める期間は、「樹木の栽植又は伐採を目的とする山林の賃貸借」の場合は10年、それ以外の土地の賃貸借の場合は5年、建物の賃貸借の場合は3年です。

3.補助人が有する「同意権」について

保佐人と異なり、「補助人」は基本的に同意権を有しておらず、「同意権付与の審判」により付与された場合にのみ同意権を有します。
 
「同意権付与の審判」は、被補助人による申立てで行われます。被補助人以外による申立ても可能ですが、その場合も被補助人の同意が必要とされます。
 
対象となる行為は、先にご紹介した保佐人が同意権を持つ上記(1)から(9)の行為と同様で、そのうち審判で同意権付与された行為についてのみ、補助人は同意権を有します。
 
付与された範囲内であれば、補助人は被補助人が同意なしに行った行為を取り消すことができます。

4.「代理権」について

「代理権」とは、本人の利益のために本人に代わって一定の行為を行う権限のこと。後見人には自動的に与えられる権限でもあります。
 
保佐人として選任された場合、上記(1)から(9)の行為について「同意権」は付与されますが、「代理権」については保佐人と補助人ともに「代理権付与審判の申立て」を行うことではじめて付与されます。したがって、代理権を一切有しない保佐人・補助人もいます。
 
代理権付与の対象となる行為については、とくに制限は設けられておらず、上記(1)から(9)の行為以外にも代理権を付与することができますが、結婚や認知、遺言といった性質上、代理権を付与することが適切でない行為には、付与することができません。
 
また代理権が付与されたとしても、本人がその行為をすることは制限されませんので、代理権が付与された行為を本人が自ら行うこともできます。
 
なお、「代理権付与の審判」についても、被保佐人・被補助人による申立てで行われ、被保佐人・被補助人以外による申立ての場合も必ず、被保佐人・被補助人の同意が求められます。

5.「保佐人」と「補助人」の権限について

保佐人・補助人として選任された場合、本人(被保佐人・被補助人)の行為に同意したり、本人に代わって一定の行為を行ったりする権限が与えられる一方で、本人自身の行為に対しても一定の制限が生じます。
 
後見・保佐・補助と、本人の事理弁識能力低下の程度が小さくなるにつれて、本人の行為に対する制限は小さくなり、本人の自由度が高まります。
 
これは、事理弁識能力が不十分な者の判断能力を補うことによって、その人の権利や利益を保護しつつも、本人の意思や自己決定を尊重しようとするノーマライゼーション(障害者や高齢者がほかの人々と等しく生きる社会・福祉環境の整備、実現を目指す考え方)の理念の現れといえます。