協議離婚における支払確保

1 総論
  協議離婚の際に、夫婦間での話し合いで相手方がお金(養育費、慰謝料など)を支払うことになっても、相手方が実際に支払いをしてくれなければ意味がありません。そのため、ここでは、相手方が任意にお金を支払わない場合に備えた支払確保の方法についてお話しします。

2 具体例
例えば、協議離婚をしようとしている夫Aと妻Bがいるとします。離婚の原因は夫Aの浮気です。
お互いの話し合いで、離婚した後、夫Aは、妻Bに対し、
①慰謝料として、総額100万円を毎月5万円ずつ分割で支払い、
②長男Cの養育費として、長男Cが成人するまで毎月3万円を支払うことを約束しました。
夫Aは、離婚届を提出した後、半年間は約束通り毎月8万円を振り込んで支払っていたのですが、その後、毎月の支払額が5万円になり、離婚から9か月後には全く支払いをしなくなりました。

妻Bが夫Aに詰め寄ったところ、
上記取り決めを書面にしていなかったことから、夫Aは「今までは善意で支払っていただけで、正式な約束はしていない。」と開き直ってきました(ケース1)。

上記取り決めを書面にしていたものの、夫Aは「生活が苦しいので支払えない。」と開き直ってきました(ケース2)。

困りましたね。しかし、ここに書いた具体例のようなことは、実際によくある話なのです。

3 合意書の必要性
協議離婚において夫婦間で取り決めた内容は書面にされないことが多く、口頭だけだと相手方に約束を破られることが非常に多いです。
ケース1の場合でも実際に裁判になれば、言った言わないの水掛け論になることがよくあります。この場合、妻Bとしては、従前の夫Aの支払実績、第三者が話し合いに関与していればその証言などによって上記取り決めがあったことを立証しなければなりません。
そのため、こういうことが起こらないように、夫婦間での約束は 「離婚に関する合意書」などといった書面に残しておく必要があります。
書面にしておけば、夫Aが妻Bからの請求に応じずに裁判となったときでも、これを証拠として提出するだけで、上記取り決めを容易に立証することができますので、比較的簡単に有利な判決を得ることができます。

4 強制執行認諾付公正証書とは
ただし、取り決めを書面でしていたとしても、約束を破った相手方が任意に支払いに応じてくれなければ、やはり裁判をしなければ給料の差押えなどの強制執行をすることができません。ケース2はその典型例といえるでしょう。
また、実際に裁判をしようと思えば、慣れない手続きですので弁護士に依頼しなければ訴状を作成するのも難しく、費用や時間や労力がかかります。
そのため、協議離婚をする際には、合意の内容を「強制執行認諾付公正証書」にしておくことをおすすめします。
公正証書とは、公証役場で事実や契約行為などの証明・認証を行う公務員である公証人が作成した文書をいいます。
また、「強制執行認諾約款」とは、公正証書のなかに記載される「債務者が金銭債務の履行をしない場合は、ただちに強制執行に服する旨陳述した。」といった文言のことで、支払義務者が支払いを怠った場合には、ただちに強制執行を受けることを了承していることを示すものです。
つまり、養育費や慰謝料の支払いについて「強制執行認諾約款付公正証書」を作成しておけば、夫Aがこれらを支払わない場合には、妻Bはいちいち訴訟を提起することなく、給料の差押えなどの強制執行をすることができるわけです。
そのため、「強制執行認諾約款付公正証書」 を作成したということは、「支払いを怠れば慰謝料の一括払いをしなければならなくなる上、給料の差押えなどの強制執行を受けるかもしれない。」という心理的プレッシャーを夫Aに与えることができます。
  なお、上記具体例のように、慰謝料の分割払いの約束をしていた場合は、通常、「2回分(上記の例でいえば、10万円)以上の支払いを怠った場合には一括で支払わなければならない。」といった取り決めをすることが多いです(この取り決めは通常の合意書にも盛り込むことができます。)。

5 まとめ
  ここまで読んでいただければ、協議離婚をする際には、後の紛争を回避するために夫婦間の取り決めを書面に残しておく必要があること、相手方からの支払いを確保するためには強制執行認諾約款付公正証書を作成する必要があることについてご理解いただけたと思います。
  ただ,離婚に関する合意書を作成する際には,5W1Hを意識して作成する必要があること(契約書について)、こちらが有利になるための条項を盛り込む必要があること、強制執行認諾約款付公正証書を作成する際には公証役場との事前のやり取りが必要になることなどさまざまな事情を考慮しなければなりませんので,詳しくは信頼できる弁護士に相談した方がいいでしょう。