否認対象行為について

1 総論
  破産手続きでは,破産管財人が破産者の有する財産を換価し,各債権者の債権額に応じて平等に配当します。
  当然,破産者はすべての債権を弁済するだけの財産を有していないので,破産者が自己の財産を減少させるような行為をすると,債権者全体の利益を害することになりますし,特定の債権者に財産を与えるような行為をすると,その他の債権者の受け取る配当が減少し,各債権者間の平等を害することになります。
  そこで,破産手続きにおいて,破産管財人には,その行為をなかったことにして破産者の財産を取り戻す権限が与えられています。
  破産管財人の有するこのような取り戻しの権利を「否認権」といい,否認権行使の対象となる行為を「否認対象行為」といいます。
  本項では,どのような行為が否認対象行為となるのかについて説明していきます。
2 否認対象行為の基本類型
  否認権の基本類型として,「詐害行為否認」(破産法160条)と「偏頗行為否認」(同162条)があります。
  「詐害行為」とは,破産者の有する財産を第三者に無償で贈与したり,適正価格よりも安く売却したりする行為のように,破産者の財産自体を減少させる行為のことです。破産者がこのような行為をすると,債権者に割り当てられるはずの財産の価値自体が減少し,債権者全体の利益を害することになります。したがって,破産手続きにおいては,このような「詐害行為」を否認対象行為として規定しています。
  「偏頗行為」とは,特定の債権者のみに債務を弁済したり担保を設定したりするなどして優遇し,債権者間の平等を害する行為のことです。破産者のこのような行為が認められるとすれば,たとえば家族や友人,関係の深い債権者など,迷惑をかけたくない相手にだけ借金を返済し,その他の債権者との平等を害する行為に走ってしまいます。したがって,破産手続ではこのような「偏頗行為」を否認対象行為として規定し,債権者間の平等を図っています。
3 否認対象行為の種類
(1)  詐害行為否認
 破産法上,次のような行為は詐害行為として否認権行使の対象になります。
ア  破産者が破産債権者を害することを知ってした行為(破産法160条1項1号)
 破産法160条1項1号では,破産者の行為の時期を問わず,破産者が債権者を害することを知ってした行為を広く詐害行為否認の対象としています。
 債権者を害する行為としては,第三者に財産を不当に安く売却するなどして債権者に分配される財産を減少させる行為などがあります。
 もっとも,債務者が各債権者に弁済可能な状態(自己破産の必要がない状態)であれば,上記のような行為はなんら債権者に不利益を与えるものではありませんから,実質的には債務者の財産状態が悪化した時点以降における詐害行為を禁止しているものといえます。
 ただし,債務者の詐害行為によって利益を受けた者(廉価販売の相手方など)が,その行為によって破産債権者が害されることを知らなかった場合には,破産管財人は否認権を行使できません(同号ただし書き)。
イ  破産者が支払の停止又は破産手続開始の申立てがあった後にした破産債権者を害する行為(同項2号)
 2号では,支払の停止又は破産手続申立後にした債権者を害する行為を禁止しています。
 「支払の停止」とは,簡単にいうと,契約通りに債務を弁済できないことを外部に対して表明する債務者の行為です。たとえば,債務整理を依頼した弁護士から債権者に対して受任通知を送る行為がこれにあたります。
 支払の停止や破産手続き開始申立ての後に,第三者へ財産を安価で売却するなどすると,否認権行使の対象となり得ますが,利益を受けた者が破産債権者を害することを知らなかった場合に否認権を行使できないことは1号と同様です。
ウ  詐害行為否認の特別類型
 以上の類型に加えて,債務の弁済に代えて過大な価値を有する財産を債権者に給付する行為(破産法160条2項,),財産の贈与・債務免除・債権放棄などの無償行為(同条3項),財産の隠匿等のために財産を適正価格で処分し換価する行為(同法161条)などが,否認権行使の対象とされています。
(2)  偏頗行為否認(破産法162条)
 法162条では,特定の債権者に対する担保の提供や債務の弁済を否認対象行為として規定しています。
 債務者が,支払不能になった後又は破産手続開始の申立てがあった後にこれらの行為をした場合や,支払不能になる前30日以内に,義務がないのにこれらの行為をした場合などには,否認対象行為となります。
 もっとも,否認対象行為の相手方である債権者が,その行為の当時に,債務者が支払不能であることや破産手続開始の申立てをしていることなどを知っていた場合に限り,破産管財人は否認権を行使することができます。
4 まとめ
  破産手続きでは,破産者の財産を確保し,債権者に平等に分配することがもっとも重要視され,否認権はその目的を達成するための制度です。
  したがって,借金を返すことができない状態になった後で行う財産の処分や特定の債権者への債務の弁済は,後に否認権の対象となる可能性があり,最終的にはそれらの行為によって利益を受けた債権者に迷惑をかけることになります。
  そうならないよう,破産すると決めたら自身の財産を減少させないように努め,一定の価値がある財産の処分等をする場合には,それが後に問題とならないかどうかを弁護士等の専門家に相談してみるとよいでしょう。