松本永野法律事務所
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1.過払い金の請求額は計算方法によって異なってしまいます(取引の分断)

過払金請求においては、過払い金額をどう計算するか(一連計算するか分断計算するか)で、請求額に大きな差が出ます。そして、貸金業者に過払金返還請求を行った場合、何らかの反論をされるのが普通です。ここでは、実際に裁判で争いになることが多く、しかも金額に大きな影響を与える可能性のある反論「取引の分断」の説明をします。

2.一つの貸金業者と2個の基本契約がある場合が要注意です

取引の分断とは、「ある貸金業者との取引において一定期間取引が途中で分断しているかどうか」を意味します。
 
1個の基本契約に基づき貸金業者との間で借り入れと返済を繰り返す場合、仮に途中で過払金が発生した場合にはその後の借入金に充当することが基本契約において合意されているとするのが裁判例です(このような合意のことを「過払金充当合意」といいます)。
 
これに対し、2個の基本契約がある場合に、過払金充当合意がされていると認められるかどうかは、ケースによって異なります。
 
このような場合に、1個目の基本契約に基づく取引と2個目の基本契約に基づく取引との間で過払金充当合意を認め一連の取引として過払金を計算するか、2個の取引が「分断」されたものとして過払金を計算するか、これがいわゆる「取引の分断」に関する問題です。

3.「一連計算」をするか「分断計算」をするかで過払い金が変わります

「一連計算」と「分断計算」でどのような違いが生じるかを、具体的に説明していきます。
 
例)
 
50万円を年利30%で借りて1年後に返済するという契約を、返済日から1年の間隔を空けて2回繰り返すとします
 
(以下、1個目の契約を「第1契約」、2個目の契約を「第2契約」といいます)。
 
50万円を借り入れた場合の利息制限法における上限金利は18%ですので、この契約では過払金が発生することになりますが、一連計算と分断計算では以下のような違いが生じます。


 

(1)一連計算

ア 第1契約どおりの返済額=50万円×1.3=65万円
 
 利息制限法に従った返済額=50万円×1.18=59万円
 
したがって、65万円-59万円=6万円の過払金が発生
 
イ その1年後(第2契約開始時)の過払金=6万円×1.05=6万3000円
 
※民法所定の法定利率(年利5%)で過払金利息が発生
 
したがって、第2契約の借入金に過払金を充当した借入元本は、
 
50万円-6万3000円=43万7000円
 
ウ そこから1年後の返済額は、
 
第2契約どおりの返済額=65万円
 
利息制限法に従った返済額=43万7000円×1.18=51万5660円
 
したがって、65万円-51万5660円=13万4340円の過払金が発生
 
エ 以上の通り、契約どおり返済すると13万4341円の過払金が発生します。


 

(2)分断計算

ア 第1契約どおりの返済額=50万円×1.3=65万円
 
利息制限法に従った返済額=50万円×1.18=59万円
 
したがって、65万円-59万円=6万円の過払金が発生
 
イ 第2契約開始時の過払金=6万円×1.05=6万3000円
 
ここまでは(1)の一連計算の場合と同じですが、ここからが異なります。
 
分断計算の場合、第2契約の借り入れに過払金は充当されず、第1契約の過払金6万3000円と第2契約の借入元本50万円が併存することになります。
 
ウ したがって、その1年後は、
 
1個目の契約:6万3000円+6万円×0.05=6万6000円の過払い
 
2個目の契約:50万円を1年後に完済するので6万円の過払い(アと同じ)
 
エ 以上の通り、契約どおり返済すると合計12万6000円の過払金が発生します。


 

(3)一連計算と分断計算では差額が生じます

このように、今回の例では一連計算と分断計算で8340円(13万4340円-12万6000円)の差額が出ました。
 
長期間借り入れと返済が繰り返され過払金が数百万円規模で生じるような事案では大きな差が出ることをご理解頂けると思います。

(4)消滅時効の問題

そして、一連計算か分断計算かでもっとも大きな違いが生じるのは、分断計算をすると1個目の契約に基づく過払金が時効にかかってしまうケースです。
 
過払金は10年間取引が中断されると消滅時効にかかります。したがって、分断計算をした場合、1個目の契約を完済してから10年が経過すると、1個目の契約による過払金を請求できなくなります。
 
今回の例でいうと、第1契約に基づく過払金6万6000円が請求できなくなるため、請求できるのは第2契約の過払金6万円だけです。
 
このように、一連計算するか分断計算するかは請求できる金額に大きな違いをもたらすため、裁判においてももっとも大きな争いとなるのです。

4.どちらの計算方法が使用されるかの判断基準

裁判では、以下のような事情を総合的に考慮して、一連計算するか分断計算するかが判断されます。
 
①1個目の基本契約に基づく取引(借り入れと返済)の期間
②1個目の基本契約に基づく最後の返済から2個目の基本契約に基づく
 
初の借り入れまでの間隔及びその間の借主・貸主間の接触状況
 
③2個目の基本契約に関する契約書返還の有無
④借り入れに使用するカードの失効手続の有無
⑤2個目の基本契約が締結されるに至った経緯
⑥1個目と2個目の基本契約の契約条件(利率等)の異同
とくに②の事情(1個目と2個目の間隔)は重視されていると考えられ、裁判例では1年以上の間隔があいていると分断計算する傾向が強くなりますが、あくまで総合的に判断されるため、一律の基準があるわけではありません。

5.どちらの計算方法が使用されるかの判断基準

以上のように、一連計算されるか分断計算されるかは、過払金を請求しようとする人にとって大きな関心事といえます。しかし、どちらの方法により過払金を計算するか明確な基準があるわけではないため、、その見通しを判断するためには専門家のアドバイスをぜひ聞いていただきたいと思います。
 
貸金業者との取引が長期間にわたって一時的に中断していたようなケースでお悩みの方は、まずは早めに弁護士等の専門家に相談されることをお勧めします。