1.刑事事件とは

裁判には、大きく分けて民事裁判と刑事裁判があります。
 
民事裁判が、個人と個人の間の紛争(会社などの団体を含みます)を解決するための裁判であるのに対して、刑事裁判は、犯罪者を国家が裁くための裁判です。
 
一般の方は、この2つの区別をあまり理解していないことが多いですが、これらは全く別の手続きです。
 
刑事裁判を含む刑事手続について、その概要を説明していきます。

2.身柄事件の流れについて

(1)身柄事件とは

警察などの捜査機関が犯罪の捜査を行う場合、犯罪を疑われる者(起訴される前は「被疑者」、起訴された後は「被告人」と呼びます)の身柄を拘束する場合と、しない場合があります。
 
このうち、身柄を拘束する場合の事件を「身柄事件」といい、しない場合の事件を「在宅事件」といいます。


 

(2)逮捕・勾留とは

捜査機関は、被疑者の身柄を拘束して捜査を行う必要があると判断した場合、裁判官の許可を得て被疑者を逮捕し、被疑者の身柄は警察署に設けられた留置場に拘束されます。
 
その後、2日から3日程度で「勾留」という手続きに移行しますが、引き続き留置場に身柄を拘束された状態が続きます。
 
被疑者の勾留は、10日以内と法律で定められていますが、その後10日間までの延長が可能なため、最大で20日間程度の勾留が続きます。 その間に、検察官が被疑者の処分(起訴するかどうか)を決定しますので、逮捕・勾留は1つの事件につき、最大で23日間継続します。
 
なお、逮捕段階では弁護士以外の被疑者との面会は一切認められませんが、勾留中は家族や友人などの面会も可能です。(もっとも、被疑者が弁護士以外と面会することを禁止する、「接見禁止」の処分がなされた場合は面会できません。)


 

(3)処分の種類とは

(ア)不起訴処分
 
有罪判決を得るための証拠が不十分な場合や、犯罪がそれほど重大でなく、被害者との示談も成立している場合など、理由は様々ですが、検察官が起訴の必要がないと判断した場合、起訴されずに身柄を釈放されます。
 
これを一般的に不起訴処分といいますが、起訴しないことが確定するわけではないので、その事件が完全に終了するわけではありません。(たとえば、別の犯罪が発覚して起訴する際に、一旦は不起訴となった犯罪も、まとめて起訴したりすることもあり得ます) しかし、基本的には不起訴処分になったら、その事件の刑事手続は終了と考えて差し支えありません。
 
(イ)略式起訴
 
比較的軽微な事件ではあるものの、不起訴処分は妥当でない場合などに、公開の裁判を開かない簡略化した手続きで、100万円以下の罰金や科料を科す手続きが略式起訴です。
略式起訴された場合、身柄は釈放され、略式命令により決定された金額を納付することで、刑の執行が完了します。
 
(ウ)通常の起訴
 
正式な裁判を求めて起訴された場合、引き続き身柄を拘束された状態が継続しますが、起訴されたときから保釈請求ができます。
保釈請求が認められると、判決までの期間、身柄を釈放され、社会生活を送りながら裁判を迎えることになります。(裁判の審理や判決の期日には、自分で裁判所に出頭します)
 
保釈が認められるにしろ認められないにしろ、起訴から1か月程度で第1回の審理が開かれます。被告人が犯罪を認めている一般的な事件の場合、通常1回で審理は終了し、その後、2週間ないし3週間程度あとに判決が言い渡されます。

3.在宅事件の流れについて

在宅事件の場合、捜査が行われている間、被疑者は警察や検察などからの呼び出しを受けて、取り調べ等に自ら出頭します。
その後、捜査の結果により検察官が不起訴処分、略式起訴、通常の起訴のいずれかを決定し、起訴された場合には審理、判決の期日と続きます。
 
このように、手続きの流れ自体は身柄事件と変わりませんが、逮捕・勾留のような時間制限がありません。(身柄事件の場合、逮捕・勾留の最長期間である23日以内に、検察官は起訴・不起訴等の処分を決定しなければなりません)
そのため、検察官が処分を決定するまでに、長期間を要することも少なくありません。

4.判決の種類について

有罪判決には、実刑判決と執行猶予付判決があります。

実刑判決の場合

たとえば「懲役1年6月」とだけ言い渡され、そのままその期間を刑務所で服役することになります。

執行猶予付判決の場合

「懲役1年6月」に加え「ただし、刑の執行を3年猶予する」などと言い渡されます。
執行猶予の意味をあまり理解していない方もよくいらっしゃいますが、猶予された期間に他の犯罪などで有罪判決を受けなければ、刑の言い渡しが効力を失い、刑務所に行くことを回避できます。
 
したがって、被告人が犯罪自体を認めている場合には、執行猶予付判決を得ることが弁護活動の最大の目標になります。(もっとも、執行猶予付判決は刑期3年以下の場合に限られ、それ以上の刑期が言い渡される重大犯罪に、執行猶予が付くことはありません)

5.まとめ

以上が、刑事手続のおおまかな概要ですが、実際は、犯罪の種類や事件の詳細によって、被疑者・被告人がとるべき対応は大きく異なります。
 
また、検察官の処分決定前には、不起訴処分獲得のための活動、検察官が起訴した後は執行猶予付判決獲得のための活動など、手続きの進行に応じて獲得目標が変わります。そのため、適時に適切な対応をしなければ、手遅れになってしまうこともあります。