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1. 権利関係・資料調査の重要性とは

この項では、債権回収に乗り出す前に、相手方の権利関係・資料の調査をする重要性について詳しく説明します。

債権回収は、相手方に契約通りの債務の履行を求めるための方法ですが、究極的には、相手方に何の資産もない場合には、債権回収は達成できません。
道義的に、「借金してでも契約通りに支払え!」と思ったとしても、法的には相手の持っている資産以外から回収はできません。

そこで、債権回収に動き出す前に、相手方にどれだけの資産があるか、どれだけの負債があるのかなどを調査して、現実的に回収が可能なのか、どのような債権回収の方法が適切なのか等を検討する必要があります。
以下では、債権回収に入る前に、相手方の調査を行う場合の方法の典型的な例をご紹介します。

2. 具体的な方法について

(1) 自社の取引の履歴を調査する

まず、債権回収に当たって重要なのは、自社と相手方との取引履歴の調査になります。
相手方との契約書を確認することで、契約の日時や債務の内容、保証契約や抵当権設定契約などの担保権の有無が確認できます。
契約や履行期の時期によっては、消滅時効の関係で、早急に法的な手続きを取る必要もあります。

また、履行がなされない契約のみでなく、相手方との間でこれまでに行った取引を調査します。それによって、自社から相手方に対して債務が存在する場合には相殺を、すでに納入した商品がある場合には商品引揚を、それぞれ選択肢として検討できるようになります。
さらに、契約書が存在していないような場合には、改めて債務確認書を作成するなど、現在の権利関係を証拠化する必要が別途生じます。

(2) 債務者との会話で調査する

(ア)次に重要なのは、相手方がどのような状況にあるのか、相手方からの聞き取りです。
相手方の状況を自社内で調査することには限界があるので、相手方から状況を事情聴取できれば、今後の債権回収計画に大きく役立ちます。
もちろん、債務の支払いができない状態になった後に、「どれだけ金融機関から借り入れがありますか?」「どこの会社に債権を持っていますか?」と聞いても、簡単に教えてもらえるはずはありません。
日常の取引において、少しずつ相手の情報を集める必要があります。

特に、取引が安定して行われている状態であれば、「社長が〇〇に別荘を買った」とか「息子が〇〇会社の役員となった」等、おめでたいニュースに混じって、物的・人的な関係を話してくれる場合があります。

(イ)もっとも、支払いが滞った状態においても、交渉の段階での調査はとても重要です。
特に、支払いをしない原因はどこにあるのか、支払う意思はあるのかについて、今後の債権回収の手段選択に大きな影響を及ぼします。
例えば、支払う能力はあるものの、「対応した従業員の態度が悪いので、払いたくない」という理由で支払いを拒否している等、感情的な原因で支払いが滞っている場合もあります。

⑶ 不動産などの資産を調査する

(ア)不動産の調査は、法務局で不動産登記を確認して調査する方法が一般的です。
不動産登記は、地番がわかれば、誰でも取得することができ、不動産の所在、種類、所有者の住所及び氏名、権利変動等の情報が記載されています。
なお、不動産登記上、土地の場所は「所在」及び「地番」として特定されていますが、実際に取引をする中では、建物を特定する「住居表示」しかわからない場合もあるかもしれません。
その場合には、法務局に備え付けられているブルーマップを利用して、住居表示と地番の対応関係を調査することが可能です。

(イ)調査した結果、法人名義の不動産が存在しないことが判明したとしても、資金繰りが悪くなった後に、親族へ譲渡されている等、いわゆる「財産隠し」的な行為をする場合があります。
その際には、詐害行為取消権(民法244条)を行使し、当該譲渡をなかったことにして、財産を戻させる可能性があります。
現時点で資産がない場合であっても、その前後関係から、財産を補足することも可能です。

3. まとめ

以上のように、債権回収の開始に当たっては、相手方の権利関係・資料の調査が非常に重要になります。
そしてこれは、往々にして、トラブルが派生してからの対応では間に合わない場合もあります。なぜなら、相手方の他の取引先も、同様に債権回収を行っているわけですから、常時そのように目を光らせている方に先手を打たれてしまうからです。

普段から相手の動向に注視し、危険信号を見逃さないことが、債権回収の第一歩であり、債権回収に至る状況を予防するうえで重要なポイントなのです。